『理念と経営』WEB記事

小さいことが 強みになる土俵を探せ!

早稲田大学ビジネススクール教授 山田英夫 氏

体力差のある大手企業に真っ向勝負を挑めば、結果は火を見るよりも明らかだ。重要なのは「戦う」のではなく、「競争しない方法」を見つけることだ――山田英夫教授が研究してきた「競争しない競争戦略」の秘訣とは。

強いものだけが生き残るわけではない

私がお薦めする競争しない競争戦略の1つ目は、ニッチ戦略だ。中小企業がニッチを狙うのは、ある意味、理にかなっている。だからといって、社員の尻を叩いて未開の市場を探させても、そう簡単に見つかるものではない。たとえ運よく開拓できたとしても、あとから参入した体力のある大手に、根こそぎ市場を奪われる可能性もなきにしもあらずだ。

大手と同じ条件で競争したら、経営資源の少ない中小企業はどうしても分が悪い。そのため、どうすれば大手と戦わず、うまく共生できるかを考える。自然界には多種多様な生物が暮らしているが、必ずしも強いものだけが生き残っているわけではない。同じ鳥類でもワシやタカに比べ、スズメはからだが小さく力も弱い。それでも絶滅しないのは、生息領域が違うからだ。これと同じ考え方を企業も実行すればよいのである。

ちなみにニッチは「隙間」と訳されることが多いが、もともとの意味は、花瓶や偶像などを置くための壁の「窪み」のこと。これが生態学に転用され、ひとつのニッチにはひとつの種しか棲むことができないというように、「ある種が占有する生息地の究極の単位」として使われるようになった。大手と戦わず自分たちが安心して生息できる窪みで生きていくというのが、本来のニッチ戦略なのである。

大手企業が入り込めない市場をつくる

それでは、中小企業が大手とうまく棲み分けるためには、どうすればいいのか。結論からいえば、自分たちと同じ土俵に上りたいと大手に思わせなければいい。たとえば、市場はあるが規模が小さすぎて、新規事業を立ち上げ人を投入しても、それに見合うだけの利益が見込めないと判断すれば、大手は入ってこない。製薬業界のリーダー企業・武田薬品工業に対して眼科領域に特化している参天製薬や、コンビニ業界リーダーのセブン‐イレブンに対して北海道に特化するセイコーマートなどは、ニッチ戦略をとって成功している。

ここで大事なのは、参入しても本当にうま味がないかではなく、大手にそう思わせることだ。それには、次の4つのポイントに留意するといい。

・市場規模を大きくしない
・単価を上げない
・利益率を高くしすぎない
・市場を急速に立ち上げない

市場が小さい、単価が安い、利益率が低いというのは、いずれも、組織を維持するための固定費が、中小よりはるかに大きい大手に、参入を躊躇させる条件になる。また、多くの大企業は投資を決める際に、どれくらいの期間で回収できるかを判断材料としている。市場の立ち上がりが遅いというのは、投資回収に時間がかかるということだから、これも大手の参入障壁になる。

なお、差別化とニッチはしばしば混同されがちだが、異なる概念だ。差別化は違いを強調してその市場のリーダーからシェアを奪おうという「戦う戦略」。これに対し、リーダーが入ってこない窪みで「戦わずに」利益を追求するのがニッチ戦略である。自分たちの強みをリーダーと戦う「矛」にするか、戦わずにすませるための「盾」にするかが違うのだ。

取材・文 山口雅之
撮影   編集部


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本記事は、月刊『理念と経営』2022年6月号「特集1」から抜粋したものです。

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