『理念と経営』WEB記事
特集1
2022年5月号
オフィス街に眠る「八百屋」へのニーズを呼び覚ます
株式会社アグリゲート 代表取締役CEO 左今克憲 氏
アグリゲートが展開する「旬八青果店」の特徴は、企業の事務所や飲食店が建ち並ぶオフィス街にあえて立地していることだ。八百屋といえば、住宅街や商店街にあるのが今までの常識だが、オフィス街ならではの需要を見事に捉え、コロナ禍でも客足が絶えない。
小さなスペースでも高利益率を確保
東京・五反田駅から徒歩5分、ビジネス街の一角の高架下に「旬八青果店」の店舗がある。広さ78平米ほどの小さな店だが、所狭しと並べられている商品は多種多様。個々の野菜や果物には産地や味、料理法などが細かく記されたPOPが付けられている。
特に目が行くのが、少し不ぞろいの柑橘類や房から折れたバナナなど、農産物の業界でいう「規格外品」だ。同社はこうしたこれまで値の付かなかった生産物も含め、味と価格にこだわることで、「オフィス街における青果店のニーズ」を掘り起こしているのである。
代表の左今さんは言う。
「都心で働く人たちが求めているのは、コンビニや小型スーパーのように、まずはスピーディであることでしょう。一方で都市に暮らす人たちは、実は食への知的好奇心がとても高いんです。ところが、『本当はこういうものを買いたい』と思っていても、それを売っている店が意外に少ない。そのため、類似品や妥協したものを買っているように思います」
例えば、旬八青果店で積極的に取り扱っているその規格外品。見た目が少し悪かったり、形が多少不ぞろいだったりしても、味がおいしいものはいくらでもある。地方の直売所に並べられている安価でおいしい野菜などの中には、まさにそのようなものも多いだろう。同社は都心のオフィス街にも秘められていたそのニーズに目を向け、小さなスペースで多品種を並べる手法で高い利益率を実現しようとしているのだ。
「僕らが注目している農産物には、これまでの仕組みの中では値が付かなかったようなものもあるんです」と左今さんは解説する。
例えば、ミカンであれば、都心のスーパーマーケットでは形や色のそろったものが販売されている。
「そうしたミカンの仕入れ原価は、5kgで2500円~3000円が当たり前です。でも、見た目がほかと違っていたり、皮がごつっとしたものだと、現地価格が5kgで150円くらいになるものもある(ただし、もちろんここに調整の人件費や物流費などが追加される)。それらはもともと僕らが買わなければ値が付かないものでした。そのように、こちらから介入して初めて価格が付く農産物を運び、お客様の評価を見る手法が成果を上げています」
また、現在、旬八青果店は都内に5店舗が直営で展開されている(そのうち1店舗はウーバーイーツ専門店)。その際、試行錯誤の中で一つの指標となったのが、「1km圏内に2万世帯」という条件を満たすエリアだ。昼食時にはお弁当の販売もしており、ついでに野菜や果物を買っているビジネスパーソンも多い。東京のオフィス街にこれまでになかった顧客の動きをつくり出した、といえるだろう。
色とりどりの野菜や果物が並ぶ旬八青果店・目黒警察署前店(写真提供 株式会社アグリゲート)
取材・文 稲泉 連
撮影 編集部
本記事は、月刊『理念と経営』2022年5月号「特集1」から抜粋したものです。
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