『理念と経営』WEB記事

“よそ者”発想で醤油の売り方の枠を広げる

株式会社伝統デザイン工房 代表取締役 高橋万太郎 氏

営業マン時代に学んだセオリーを生かしながら、「小瓶で醤油を売る」という新しい市場づくりに邁進する高橋さん。自ら営業をしなくても、小売店などから「取引したい」と声がかかるという。高橋さんの営業哲学とは――。

多様な醤油を気軽に買えるようにしたい

日本人にとって欠かせない調味料である醤油――。だが、日頃からスーパーなどで醤油を買い求める私たちは、その世界の豊かさをどれほど知っているだろうか。

「職人醤油」の名で日本全国のさまざまな醤油を100ml単位で揃え、ネットを中心に販売する伝統デザイン工房。同社の代表である高橋万太郎さんが、事業におけるそんなテーマに出会ったのは、起業のためのリサーチをしていた2007(平成19)年頃のことだった。

「最初の頃、私がまず興味を持ったのが伝統産業の世界でした。『良いもの』をつくっていても、なかなか消費者に届かない。その種の悩みを抱えがちな業界であれば、自分にもお手伝いできることがあると感じたからです。醤油の業界に注目したのは、スーパーの売り場にずらっと並んでいる商品の棚がどこも似ていたからですね。1Lサイズの同じような商品が並んでいるばかりで、『いろんな種類を試してみたい』と思っても、これでは2つも3つも買えない。それなら、小瓶にすることで多様な醤油を気軽に買えるようにしたらどうか。そう考えたわけです」

日本全国には醤油づくりをしている醸造蔵が1600ほどあるという。高橋さんはこれまでに、全国の500社を訪問。現場で職人たちと話をして知識を深めながら、ECサイト「職人醤油」で販売したい商品を厳選してきた。

小瓶での醤油のネット販売という新しい市場づくりに挑戦するとき、大切だったのは「自分が業界の外の人間だったこと」だと彼は言う。

例えば醤油という商品は、1Lで1000円だと「少し高い」と消費者は感じるだろう。よって、100mlの小瓶に500円ほどの値を付ける高橋さんのビジネスモデルは、「業界の常識の外」にあるものだった。その意味で、価格が消費者に受け入れられるためには、消費者のどのような「潜在ニーズ」が、このビジネスモデルによって掘り起こされるかにかかっていたといえる。

「お料理が好きな人の中には、いろいろな醤油を使ってみたくても、機会がなかった人もいたでしょう。そうした人にとって、醤油の『選択肢』が初めてできた。また、それぞれの土地に根差した醤油は、どれも味が違えば相性の良い料理も違います。クラフトビールやワインのように、合わせて美味しい食べ物を考え、使い分けると食卓が豊かになるはず。そうした新しいライフスタイルの提案になったのだと思います」

さらに小瓶の詰め合わせはギフトにもふさわしい。同時にこれまで食品を扱っていなかった雑貨店でも取り扱われるようになり、新たな販路も開拓された。

売り込むのではなく相手を理解する

そのように事業を形づくった上で、高橋さんが意識してきたものがある。それが前職での営業マンとしての経験だ。

彼は卒業後、精密機械大手のキーエンスで3年間、営業職として働いた。その際、仕事を教えてくれた先輩が同社のトップ営業マンの一人で、さまざまなことを現場で学んだという。「特に繰り返し言われていたのが、『お客さんと営業マンは対等だよ』という言葉でした」と彼は続ける。

「新人の営業が陥りがちなのは、『お客さんの方が自分より偉い』と勝手に思い込むことです。しかし、お客さんに信頼されるためには本来、しっかりとした知識を持ち、同じ目線で話せるようにならなければならない、と」

そのとき営業マンが持つべきは、「自分の主観」「顧客からどう見られているか」「天井からそのやり取りを見る客観的な姿勢」という“3つの視点”だと教わったそうだ。


「お客さんに『売り込む』のではなく、『この営業マンは自分のことをわかってくれたぞ』と感じてもらうことが大事なんですね」

取材・文 稲泉 連
撮影 西田優太


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本記事は、月刊『理念と経営』2022年5月号「特集1」から抜粋したものです。

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