『理念と経営』WEB記事
特集2
2022年5月号
需要が飽和する今こそ、消費者インサイトを探れ!

株式会社JX通信社 マーケティング・マネージャー 松本健太郎 氏
飽和社会において消費者のニーズや欲求は本当になくなってしまったのだろうか? 松本氏は「現代は消費者のニーズを満たすのではなく、先に見つけなければならない」と語る。最前線で活躍するマーケターに聞く、潜在ニーズの見つけ方。
企業は想像以上に消費者心理を知らない
――消費者インサイト、とは何なのでしょうか? なぜインサイトを知る必要があるのでしょうか?
松本 簡潔に言えば、人を動かす隠れた心理のことです。それを知ることで、「そうそう、どうして私のことがわかるんですか? だったら買います」という展開が作れる。例えば、定食チェーンの大戸屋ごはん処の多くはお店が二階や地下にあったり、一階にあっても店内が見えにくくなったりしています。理由は、女性が入りやすいからだそうです。子ども連れのお母さんは、目立ちたくない。「子どものために自分でご飯を作らないなんて」と周囲から思われたくないですよね。
実際、そんなふうに女性にとって居心地のいい場所になっているわけですが、消費者の心理を知ろうとインタビューしたところで、女性からそんな発言がスラスラ出てくるはずがありません。「子どものご飯は自分で作ってあげたい」と多くのお母さんが言うはずです。でも実際には時にはラクもしたいし、手も抜きたいし、自分の時間が欲しい。私はこれを悪魔的な感情と呼んでいますが、こういうところにインサイトは潜みやすい一方、簡単には外に出てこないんです。
――多くの会社が「ユーザーや消費者について、しっかり考えて商品やサービスを提供している」と思っています。
松本 インサイト的なものを考えているとは思いますが、多くの場合、消費者が欲しいものではなく、「消費者はこれが欲しいだろう」と企業側が思って作っているんです。ここに気をつけないといけません。
実際、2021年「TikTok売れ」という言葉が流行りました。TikTokで紹介されたものが売れている、という事象だったわけですが、これを消費者起点で考えると本来は「TikTok買い」という言葉でなければおかしい。
これはビジネス誌が流行らせた言葉です。彼らがどっちを向いて仕事をしているか、極めてわかりやすい事例でしょう。その読者が企業の人たちですから、一事が万事、そういうことだと思ったほうがいいですよ。
イメージ図:編集部
お客様の隠れた不満を“発見する”時代に
――「消費者は何を求めているのか」という従来型のアプローチでは、もうニーズは見つけられなくなっているのでしょうか。
松本 お客様に聞いてモノやサービスを生み出して、これまで企業が支持を得てきた、というのは事実だと思います。日本企業はお客様を大事にしてきたし、耳を傾けてきた。でも、もう聞けば出てくる不満は、ほとんどなくなってしまったわけです。ほぼ満たされてしまった。お客様に聞いても、もう求めるものは出てこない。だから、課題設定を変える必要があるんです。よりディープに聞いていってインサイトを知り、「この課題なら自分たちでも解決できる」というものを見つけていく。まだ満たされていない気持ちを発見して、事業に仕立てていく。
例えば、最近ブームから定番になりつつある一人焼肉。もともと一人で焼肉を食べたいというニーズはあったんです。しかし、店舗側が実装できていなかった。「一人でもどうぞ」とは言われても、まわりが家族や友人連れの中で、一人ポツンと食べるのは抵抗がある。それなら焼肉でなくていい、ということになります。ところが、店舗側が変わって一人焼肉専門店を作った。だったら行こう、ということになるわけです。
取材・文 上阪徹
本記事は、月刊『理念と経営』2022年5月号「特集2」から抜粋したものです。
理念と経営にご興味がある方へ
無料メールマガジン
メールアドレスを登録していただくと、
定期的にメルマガ『理念と経営News』を配信いたします。