『理念と経営』WEB記事

第12回/『問題解決大全――ビジネスや人生のハードルを乗り越える37のツール』

「問題解決本」の集大成にして決定版

「問題解決」本は、いうまでもなくビジネス書の定番の一つです。
Amazonのサイトで「問題解決」に関連する本を検索してみれば、ざっと10000件以上の検索結果が並び、その多くはタイトルに「問題解決」の4字を冠しているのです。

今回取り上げる『問題解決大全』も、むろんその一つであり、一種のビジネス書と言えます。しかし、ビジネス書の中に並べると、かなりの異彩を放つ本でもあります。

『~大全』と銘打たれているとおり、本書には、ビジネスの世界に限らず、あらゆる分野で生み出されてきた37の問題解決の技法がまとめられています。
たとえば、心理学、哲学、宗教、神話、歴史、経済学、人類学、数学、物理学、生物学、看護学、計算機科学、品質管理、文学などに由来する技法です。

巻末に付された「問題解決史年表」を見ると、本書に登場する37の技法が、人類出現以来の長い歴史の中に位置づけられています。
そのことが示すとおり、人類史の中で編み出されてきた主要な問題解決技法を集大成し、そのエッセンスを抽出してカタログ化した本なのです。

取り上げられた技法はすべて、「レシピ」「サンプル」「レビュー」の3つのパートに分けて解説されています。
「レシピ」は、それがどのような方法なのかの簡潔な説明。「サンプル」は、その技法を現実の問題解決にあてはめてみた用例。そして「レビュー」は、その技法を生み出した人物や生まれた背景などについての解説と、著者自身の評価です。

著者は「まえがき」で、本書について《実用書であると同時に人文書であることを目指している》と述べています。
《ハウツーを提供するだけでなく、問題解決の歴史を振り返り、その本質を掘り下げ、ルールをつくり社会をつくる人間という生き物が、なぜ問題解決を必要とするのかという問いにも答える》内容だというのです。

たしかに、読み物としても面白く、幅広い教養が身につく本です。しかし同時に、実用書としても大いに役立つ本でもあります。たとえば――。

企業経営は、毎日が大小さまざまな問題解決のくり返しです。経営者はつねに目の前の問題解決について思案を重ねているでしょう。
しかし、どうやって問題解決したらよいかがわからない……そんなとき、本書をパラパラと開いて、そこに載っている問題解決技法に、いま悩んでいる問題をあてはめてみましょう。思いもよらない解決法がひらめくかもしれません。本書はそのような、“問題解決のヒント集”として活用することもできます。

37の異なる技法のエッセンスが紹介されているだけに、いま直面している問題にしっくりくる解決の技法も見つかりやすいでしょう。
その意味で、本書は「問題解決本」の集大成にして決定版と言えます。

ベストセラー『独学大全』の著者の前作

本書の著者「読書猿」さんは、本名・正体不明の謎の著作家です。昼間は勤め人をしており、通勤時間やプライベートタイムを用いて執筆活動を続けています。

人を食ったペンネームは、「読書家、読書人を名乗る方々に遠く及ばない浅学の身」であるという理由から名付けられたと言います。
そんなペンネームとは裏腹に、世の読書家たちを唸らせる博覧強記の賢人であり、その著作にもあふれんばかりの教養が感じられます。

単著は、これまでに三冊。
第一作『アイデア大全――創造力とブレイクスルーを生み出す42のツール』(フォレスト出版/2017年)と、第二作に当たる本書もそれぞれロングセラーになっていますが、一般に最もよく知られているのは2020年9月刊の第三作『独学大全――絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』(ダイヤモンド社)でしょう。

税込み3000円超えの「鈍器本」(鈍器として使えそうな分厚い本)でありながら、現時点(2022年4月時点)で24万部を突破したという大ベストセラーになった『独学大全』は、読書猿さんを「独学の達人」「在野の賢人」として一躍有名にしました。
過去3冊の単著がいずれも『~大全』と銘打たれているのは、トマス・アクィナスの『神学大全』を意識してのことだそうです。
『神学大全』は、中世の神学者であるアクィナスが、それまでのカトリック神学を体系化し、「スコラ哲学」を完成させた神学書。「キリスト教三大古典」の一つに数えられています。

最近、ビジネス書に『○○大全』というタイトルのものが目立ちます。読書猿さんの『独学大全』がベストセラーになったことも影響しているのでしょう。
しかし、中には『○○大全』と謳うことがおこがましく感じられるほど、内容の薄いものも散見されます。『○○大全』と銘打つ以上、読書猿さんの著作くらいの網羅性と内容の濃密さが欲しいところです。

『アイデア大全』も『独学大全』も、広い意味ではビジネスに役立つ内容ですが、経営者がいちばん先に手に入れるべきなのは、何といっても本書でしょう。

座右に置き、時間があるときにパラパラとめくっているだけでも、さまざまな問題解決技法のエッセンスが心に刻まれるでしょう。
そのことが、知らず知らずのうちに問題解決力のアップにつながっていくかもしれません。

読書猿著/フォレスト出版/2017年12月刊
文/前原政之

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