『理念と経営』WEB記事
特集2
2022年4月号
あなたは、部下の気持ちや考えに耳を傾けていますか?

東京メンタルヘルス所長 武藤清栄 氏
今後ますます求められる上司の傾聴力――。職場や家庭における快適な人間関係づくりを実現するため、メンタルヘルス指導を行う武藤氏に、傾聴力を高めるためのポイントをお聞きした。
上司と部下の間にある見えない“溝”
――今、傾聴力が注目されているのは、なぜでしょうか。
武藤 家庭では核家族化が進み、地域のつながりも希薄化し、若者世代ではSNSの普及で会話によるコミュニケーションが減少しています。会社にあっても余計なことを言うとセクハラだとかパワハラだと言われる状況の中で、円滑な人間関係が持ちにくくなっています。社会全体で孤立化が進んでいる時代だからこそ、コミュニケーションのカギとなる傾聴力というものが注目されているのでしょう。
――特に上司と部下のコミュニケーションは難しいです。
武藤 上司にしてみれば、部下は何を考えているのかわからないと思うし、部下にしてみれば、上司に話をしても聞いてくれないと思ってしまう。これではいい関係が築かれるはずもありません。
――部下にとって声をかけにくい上司とは、どんな上司でしょうか。
武藤 私が実施したアンケート調査の結果によると、第1位は上から目線の上司。2位はすぐに怒る上司。3位は話を受けとめられない上司。4位は話を最後まで聞かない上司。5位はダブルバインドの上司。ダブルバインドというのは2つの矛盾したメッセージを送るという意味で、例えば、口では「君を責めるつもりはないけど」と言いつつ、明らかに怒った表情や口調で責めるような上司を指します。
――部下との関係をよくするための傾聴力について教えてください。
武藤 傾聴は、「訊く」でも「聞く」でもなく、じっくり「聴く」ことです。言葉だけではなく相手の気持ちや考えに耳を傾け、相手を理解すること。理解は最大の交流を生むからです。上司が部下を理解し、部下が上司を理解すれば、もうそれだけで豊かな交流が生まれます。
オープンクエスチョンで聴こう
――傾聴力を高めるためには何が大切ですか。
武藤 たくさんありますが、基礎的なポイントだけ紹介します。まず上司は、「忙しいオーラ」を過剰に出さないように心がけましょう。上司がピリピリしていると、部下は声をかけづらいものです。
部下に声をかけるときは、相手の気持ちや考えを聴くための「質問」が大事です。そのときに、「はい」とか「いいえ」など返事が限られる「クローズドクエスチョン」よりも、会話の幅が広がる「オープンクエスチョン」がお勧めです。例えば、「仕事は楽しいか」と聞いた場合は「はい」と答えるしかありませんが、「仕事はどう」と問いかければ、自分が今抱えている課題などを話してくれたりして会話が深まります。
便利な言葉は、「何かある?」です。「今日は疲れているように見えるけど、何かあった?」と聞けば、いろんな話が出てくる可能性が生まれます。自分の話を聴いてくれるだけで、部下は上司への信頼を深めます。
取材・文 長野 修
撮影 編集部
本記事は、月刊『理念と経営』2022年4月号「特集2」から抜粋したものです。
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