『理念と経営』WEB記事
編集長が選ぶ「経営に役立つ今週の一冊」
第8回/『これだけは知っておくべき社長の会計学』

中小企業経営者に的を絞った会計入門
今回はいつもと少し趣を変えて、思いっきり実用的な本を紹介しましょう。
会計学について、一般向けにわかりやすく説いた入門書は、すでに汗牛充棟の観があります。代表的なものとして、累計160万部を突破したというミリオンセラー『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?――身近な疑問からはじめる会計学』(山田真哉著/光文社新書/2005年)が挙げられます。
本書も、その列に連なるものといえます。『さおだけ屋は~』の山田真哉氏がそうであるように、本書の著者・小形剛央(おがた・たけひさ)氏も公認会計士・税理士です。
ただし、本書には類書とは異なる大きな特徴が一つあります。それは、中小企業経営者に的を絞った会計入門である点。そのような本を企画した理由は、著者の経歴にありました。
著者は大手監査法人に10年間勤めたのち、家業の税理士事務所を継ぎました。
監査法人時代にはクライアントも上場企業中心であり、経営者たちも会計に対する意識が高かったそうです。
ところが、家業を継いでからは中小企業経営者とばかり接するようになり、彼らの会計意識の低さに著者は驚きます。
《中小企業経営者のなかには、本業に熱心である一方、会計は経理担当や税理士に丸投げ状態といった方が少なくありません》
《中小企業の社長の多くは、会計に苦手意識を持っています》
このあたり、耳の痛い経営者も多いでしょう。
しかし、著者は税務顧問先の“会計嫌いの社長たち”に会計のポイントをレクチャーし、会計の重要性を理解させることによって、彼らを変えてきました。そうすることで、中小企業250社の売り上げ改善をサポートしてきたのです。
本書は、その経験を踏まえて書かれた、“中小企業経営者のための会計入門”です。
「会計」のイメージを一変させる本
全4章からなる本書の第1章は、「会計嫌いな社長が気づかぬうちに大損している理由」。
つまり、最初の章を丸ごと割いて、“中小企業経営者が会計嫌いであるべきではない理由”を解説しているのです。
著者はまず、なぜ会計嫌いの社長が多いのかという背景を探ります。そして次に、嫌いなままでいると経営にどんなデメリットが生じるのかを、さまざまな角度から説明していきます。
デメリットとして挙げられているのは、《そもそも会社がうまくいっているのか分からない》、《優先してリソースを割くべきことを選別できない》、《会社の資金の使い方がルーズになる》、《「必要な借金」と「不必要な借金」を判断できない》など……。
どれも、会計嫌いな経営者には思い当たることではないでしょうか。
「私は会計苦手だけど、うちの会社は優秀な税理士さんにまかせているから大丈夫」と思われた方も多いでしょう。しかし、1章の最後には《会計業務を税理士に丸投げするのはNG》という項目があります。
そして、会社が自ら会計業務を行う「自計化」のメリットを説くのです。
ただし著者は、中小企業が税理士のサポートを受けることを否定しているわけではありません(著者自身が中小企業の税務顧問を務める立場ですから、当然です)。経営者自身が会計について理解し、自計化してこそ、税理士から効果的な形でサポートが受けられる、というのです。
この第1章を読むだけでも、「会計なんて、融資を受けるときや税務申告にだけ必要なもの」というイメージが一変し、経営と切り離せない大切なものであることがわかるでしょう。
会計を学ぶ最初の入り口になる
そして、全体のメインパートとなる第2章では、会計業務の要点が4つのステップに沿って解説されていきます。
4つのステップとは、1.書ける(会計を正しく記録する)、2.読める(会計から正しく情報を読み取る)、3.使える(会計を分析し、経営に活かす)、4.話せる(会計を使って自社について伝える)――。
これらのステップを段階的に踏んでいくことで、中小企業が自計化に挑戦できるように配慮した構成なのです。
ただし、細かい財務諸表のたぐいは最小限に抑えられ、会計の知識ゼロから学べるわかりやすい内容になっています。
逆に言えば、すでに会計のことが一通りわかっている人には、やや物足りない内容でしょう。会計が苦手な経営者をターゲットに据えているのですから、当然ですが……。
また、一つ苦言を呈するなら、本書のサブタイトル「たった3か月で売上高倍増!」は、大げさすぎていただけません。
おそらく版元サイドがつけたものでしょうが、著者自身は《会計という地図を見ながら行動していけば、3ヵ月もあれば成果が現れるはずです》と述べているだけで、「たった3か月で売上高倍増!」とまでは言っていません。
本書は誇大表現で読者を煽るような内容ではなく、中小企業経営者が会計を学ぶ最初の入り口にふさわしい、真面目な入門書なのです。
著者は「おわりに」で、本書に託した思いを次のように説明しています。
《私は日本の中小企業はそのポテンシャルを十分に発揮できていないと感じています。
(中略)その理由は、会計に対する知識不足・経験不足にあるのだと思っています。
ビジネスにおいて「英語・IT・会計」は3種の神器と呼ばれますが、中小企業においては会計が第一です。
会計は、あらゆる経営判断の根拠になります。根拠があるからこそ確かな判断ができ、また期待どおりの結果が得られなかったときに改善できるのです》
本書はいわば、会計の専門家からすべての中小企業経営者に送られたエールなのです。
小形剛央著/幻冬舎/2021年12月刊
文/前原政之
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