『理念と経営』WEB記事
特集2
2022年3月号
上司と部下の共通理解が人事評価に温度感を与える

神戸大学経済経営研究所准教授 江夏幾多郎 氏
「人事評価を社員の『通知表』としてはいけない」と語る江夏氏。
リモート時代にも通用する、人事評価の“本質”を説いてもらった。
人事評価は社員同士を結びつけるツールである
人が企業で働いていくとき、自分に対する人事評価への「納得感」はとても大切な要素だ。だが、多様で複雑な業務が混然一体となった中で、企業側が社員一人ひとりの成果を数値化することは難しい。「だからこそ」と神戸大学で人事管理論を研究する江夏幾多郎准教授は言う。
「人事評価が内包するその『曖昧さ』をどう取り扱うか。とりわけホワイトカラーの仕事の場合、成果には客観的な数値化が難しい抽象的な部分が残ります。その曖昧な領域について、上司と部下があくまで彼らなりのやり方で成果基準を定義し、合意可能な範囲で数値化することで、人事評価の持つ本来のポテンシャルを開拓していくのです」
そのために意識するべきは、普段のコミュニケーションだ。
上司と部下の関係は「1on1」面談といった形式だけで深まるわけではない、と江夏氏は指摘する。日々の仕事の場面でのフィードバックや質問、それを通じた業務理解の深まりや目標の再設定――。日ごろのやり取りにおいて、上司は、部下への期待を明確に伝え、理解してもらえるように努める。一方で部下には、上司の期待に沿いつつ、現実的な期待を上司に持ってもらうために自身や職場の実情を伝える。そういった双方向のやりとりがあってこそ、人事評価につながる業務目標の設定、達成度の確認が可能になる。
「人事評価で社員が『納得感』を得るためには、上司と部下が会社や職場の理念、目標や現状を共有していること、より正確には、共有に向けたやりとりに積極的であることが必要です。仕事や成果の多くが数値で表しにくいものだからこそ、職場で日ごろから『ここはこうだよね』と話し合っておけば、客観的ではないかもしれないけれども合意が可能な評価すなわち数値化が可能になります」
また、職場でのコミュニケーションを評価への納得感につなげる上で、もう一つ重要なポイントがある。それは「上司が部下に点数をつけるということだけで納得感を醸成すべきではない」という認識だ。
「人事評価を社員への『通知表』としてはいけません」と江夏氏は話す。
「企業は人事評価を通じて、社員に期待する貢献、より具体的には能力・行動・成果の中身だけでなく、それを期待する理由を会社や職場の目標や理念、価値観に紐づけて伝えることができます。評価基準は何をなすべきかを社員に指し示します。評価結果はともすれば『通知表』と取られがちですが、結果そのものよりも結果を踏まえて今後どうすればいいかを考えることに、社員の関心、マネジメントの力点を移したいものです。そうすることで、企業と社員の統合がより進み、自ずと評価への納得感は高まります」
取材・文 稲泉連
本記事は、月刊『理念と経営』2022年3月号「特集2」から抜粋したものです。
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