『理念と経営』WEB記事
特集1
2022年3月号
オンライン/オンデマンド教育はセカンドチョイスではない

熊本大学教授システム学研究センター教授 鈴木克明 氏
今やITの活用範囲は生産性向上や業務効率化だけではなく、企業の人材育成にも広がっている。教育工学が専門の鈴木教授は、平時に戻っても新人教育へのオンライン/オンデマンドの活用を推奨する。その理由とは――。
隙間時間での自己学習が可能に
コロナ禍の影響で社内のオンライン化を進めている企業が多いと思います。私は約16年にわたってeラーニングによる教育システムについて研究してきました。いわばオンライン教育の専門家です。そんな私が声を大にしてお伝えしたいのが「オンライン/オンデマンド教育はセカンドチョイスではない」ということ。対面と違って信頼関係を築きにくい、現場でしか教えられないことがある、といった心配があるかもしれませんが、オンライン/オンデマンドならではのメリットを活用していただきたいです。
前提として、オンラインとオンデマンドの違いを改めて説明します。オンラインはZoom会議に代表されるようにリアルタイムで参加者同士が時間を共有するもの、オンデマンドはいつでもどこでも映像や画像を見られるようにインターネット上にアップして共有するものです。私が特におすすめしたいのはオンデマンドによるリソースの共有と蓄積です。
対面でもオンラインでも「話を聞くだけ」の研修は、それぞれがメモをとったとしても、聞いた内容が定着しづらく、同じ内容の研修を毎回やるのも、考えてみれば非効率です。一度、撮影してアップロードすれば、何度でも確認できますし、毎年同じ研修会を開かなくて済みます。
対面での現場研修もOJT(職場内訓練)的発想で撮影しておく。小さい単位で細かな部分のサポートとチェックができるTO DOリストをアップロードしておけば、とても便利です。ノウハウや体験談も残しておくと、仕事の合間や空いた時間に落ち着いて見られます。能動的に見られるものなので、しっかりインプットされるでしょう。このように、オンデマンド教育なら、社員にとって都合のよい隙間時間を人材育成に利用できます。
自律的に学ぶ人を育てることが肝要
コロナ禍で新入社員教育もリモートで行うようになり、これまでと違う状況に試行錯誤した企業も多いはず。でも、ウィズコロナに移行してきた今こそ、後戻りせずに、オンライン/オンデマンドのメリットを活かした研修を積極的に取り入れて、リアルな研修とうまく組み合わせた仕組みを構築するとよいと思います。例えば、新人には「何を学んだか」、映像も含めた気づきのメモをアップロードしてもらう。そうすれば、自身の学びも定着するうえ、未来の後輩をはじめとした他の社員への貢献にもつながります。
デジタルネイティブの若者でなくても、わからないことはインターネットで調べて情報を得るのが当たり前の時代。会社にも、必ずしもリアルにこだわる必要がないことが、意外とあるのではないでしょうか。
そうでなくても、先輩の背中を見てもそんなに学ばない人はいるわけです(笑)。現場ですべて覚えさせなければならない、という重い責任感から上長も解放され、楽になれる環境を作ることも大切。指示待ち人間を育成するのではなく、自律的に学ぶ人を育てるのが肝要です。
オンラインとオンデマンドの違い
本記事は、月刊『理念と経営』2022年3月号「特集1」から抜粋したものです。
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