『理念と経営』WEB記事
特集1
2022年3月号
徹底した仕組み化で、時代に合った働き方を模索し続ける

株式会社楓工務店 代表取締役 田尻忠義 氏
住宅業界の離職率、転職率は高い。だが、注文住宅を手がける楓工務店では、過去8年間で50名の新卒スタッフを採用している。その背景には、社長の田尻忠義さんの「人こそが自社の強み」という信念とロジカルな戦略がある。
「見て覚えろ」は人材育成の放棄
――日本企業の人材育成に問題があるとすればどこですか。
松尾 日本では長らく、部下は上司や先輩の背中を見ながら勝手に育っていくものだと思われていました。実際、勤勉で空気を読むのを苦にしない日本人には、そういうやり方が合っていたのです。しかし、近年はデジタル化が進み、リモートワークでは、上司の働き方が見えにくくなっています。背中を見せながら教えることも大事なのですが、それに加えて必要なことは言語化して伝えることです。それができるマネジャーが少ないため、人が育ちにくくなっているというのが現状です。
田尻社長は大工として業界に入り、年月をかけて腕を磨いた。しかし、いくら腕を磨いても住宅業界の川下にいると、川上の住宅メーカーとの意思疎通が難しく、お客様の希望を100%叶えられないジレンマに苛まれる場面が何度もあったという。
「下請けとして図面通りに造るだけ、になりがちなんです。現場でお客様に『妻の背丈に合わせたキッチンの高さにしてほしい』とリクエストされても、ハウスメーカーの下請けでは叶えられません。一生に一度の買い物でお客様の夢が詰まった住宅に最初から不満を持たれることほど、つらいことはない」
だから受注からワンストップで、理想の家づくりを叶える会社を1997(平成9)年に立ち上げた。企業理念は「笑顔を創造し続ける」である。
「お客様はもちろん、弊社で働いてくれる社員にも笑顔になってもらいたい、ということ。最初は中途採用のみでした。新卒の学生さんは弊社のような住宅会社を知りようもありませんから、なかなか来てくれません。即戦力も必要でした。とはいえ、経験者はそれぞれ仕事の進め方を持っていて、私の方針と違う場合もあります。それから、今、私は52歳ですが、私世代は『見て覚えろ』が基本でした。でも、それって人材育成の放棄なんじゃないかな、と思ったし、新卒社員にそれぞれのやり方を見て覚えさせるのも違うな、と考えました」
ベテラン社員でも仕事の仕方が異なれば、田尻社長が理想とする楓工務店流を覚えてもらう必要がある。いずれにしても、育成の手間はかかるわけだ。それなら一から育てたいと、2014(平成26)年に新卒採用をスタートし、新卒スタッフの成長に手ごたえを感じた。
「経験者も頼もしいから必要ですが、新人のキラキラしたやる気、成長のスピードを見て、これは育成しがいがあると改めて思いました。せっかく弊社を選んで入社してくれた社員が住宅業界で活躍できるように一人前に育てたいし、できることならずっと弊社で働き続けてほしい。なぜなら、住宅は35年ローンを組んで購入される方が多い商品です。造った会社が末永く存続して、責任を持たなければならない。私が引退したら無くなる会社では困るんです」
取材・文/中沢明子
写真提供/株式会社楓工務店
本記事は、月刊『理念と経営』2022年3月号「特集1」から抜粋したものです。
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