『理念と経営』WEB記事

第2回/『あなたの生産性を上げる8つのアイディア』

ジャーナリストの視点から〝生産性を上げる極意〟に迫る

今回は新刊ではなく、数年前に邦訳が出た本を取り上げます(原著刊行は2016年)。

著者のチャールズ・デュヒッグは、米国のジャーナリスト。
2012年に刊行した『習慣の力(The Power of Habit)』(邦訳はハヤカワ・ノンフィクション文庫)は、200万部突破のミリオンセラーになりました。
同書は習慣の力の秘密を科学的に解明したノンフィクションで、よい習慣を身につけるための実用書としても一級品でした。

私も、少し前に読んだ『習慣の力』がとてもよかったので、本書を読んでみたのでした。

「はじめに」には、次のように書かれています。

《本書は、生産性の秘密に関する私の調査の報告であり、どうして群を抜いて生産性の高い人や企業と、生産性の低い人や企業があるのか、両者の違いは何か、という問いに対する答えである。(中略)
生活のすべての面において、より賢く、より速く、より良くなるにはどうしたらいいのか。本書はその答えを提供する》

この言葉どおり、企業・個人・集団が生産性を上げるための極意が、おおむね8つのポイントに沿って紹介されています。

本国アメリカよりも、むしろ日本でこそ広く読まれてしかるべき本でしょう。何しろ、日本企業は先進諸国に比して生産性が低いことが問題視されているのですから。

『あなたの生産性を上げる8つのアイディア』という邦題は、日本のビジネス書によくあるお手軽なハウツー書のようで、なんだかパッとしません。しかし中身を読めば、ハウツー書のたぐいとはレベルが違います。もっと深みがあって濃密な内容なのです。

生産性向上をめぐる極上ノンフィクション集

日本のビジネス書の場合、「生産性向上をテーマにした本を出そう」となったら、たいていは経営コンサルタントや経営学者を著者に立てるでしょう。そして、その著者が〝頭の中にある材料〟だけを使って本を書いていくことになります。

それに対して、本書のアプローチは逆です。
練達のジャーナリストである著者は、生産性についての文献・論文を多数読み込み、生産性向上を8つの切り口から扱うことを決めました。そして、各切り口を展開するうえでふさわしいエピソード/ドラマを選び、その当事者たちに綿密な取材を重ね、本書を作り上げたのです。

つまりこれは、たんなるビジネス書というより、生産性向上をめぐる8編のノンフィクションを集めた本なのです。しかも、各編には複数の濃密な人間ドラマが詰め込まれています。

たとえば、第5章「人を動かす」では、①FBIに画期的な犯罪データベースが構築され、犯罪捜査が飛躍的に効率化されるまでのドラマと、②トヨタ方式を取り入れることで、米国の劣悪な自動車工場が全米屈指の生産性を持つまでのドラマが、並行して描かれていきます。

また、第7章「イノベーションを加速する」では、『アナと雪の女王』と『ウェスト・サイド物語』の脚本がどのように困難を突破して完成したかというドラマを通し、〝集団で行う創作プロセスの生産性向上〟の要諦が綴られています。

各章が、それぞれ一編のノンフィクションとして上出来です。読者はそれを楽しむうち、いつの間にか生産性向上の極意を理解しているでしょう。

ビジネス・ノンフィクションの傑作であり、中小企業の生産性向上のヒントもちりばめられた良書です。

チャールズ・デュヒッグ著、鈴木晶訳/講談社/2017年8月刊
文/前原政之

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