『理念と経営』WEB記事

己の弱さを見せ、学ぶ姿がフォロワーシップを生む

株式会社チームボックス 代表取締役 中竹竜二 氏

早稲田大学ラグビー蹴球部監督として2年連続の全国優勝を果たし、ラグビーU20日本代表のヘッドコーチも務めた手腕を持つ中竹氏。部下を育てるためには、自分の弱さをさらけ出す必要があるという。ミレニアル世代やZ世代の若手社員たちと信頼関係を築くヒントを探る。

経営者といっても、育成は素人である

――中竹さんは、一人のリーダーがチームを引っ張るのではなく、メンバー一人ひとりがリーダーになり、全員が主体的、自律的に動く。そんな組織が作れるリーダーを推奨されてきました。キーワードには「弱さをさらけ出す勇気」と「学ぶ姿勢」を挙げておられます。

中竹 人間は観察力に優れています。作り笑いはほぼ見抜ける、とも言われています。背伸びも知ったかぶりも建前も、実は見抜かれていると思ったほうがいい。人間は完璧じゃないんです。だから、自分が引っ張っていかないと、などと思わなくてもいいんです。良かれと思って無理して引っ張っていこうとしても、まわりからは、どうしてそんなに強がったり、完璧を求めたりしているのか、と思われているかもしれません。むしろ弱さはさらけ出したほうがいい。それは本当のことを伝えることであり、これが信用につながるんです。

 そして人を育てるとはどういうことかというと、学びを支援することです。ここでも完璧な形はありませんから、どうすれば学びを支援できるのか、探求し続けることが重要になる。経営者といっても、育てることには素人であると認識する必要があります。そこから一緒に学びを考えていく。育てていくことが難しいと感じるなら、それだけ手応えのある役割を担っているのだ、と感じたらいいと思います。


早稲田大学ラグビー蹴球部の監督時代。中竹氏は選手を怒鳴ることはほとんどなく、むしろ、「試合に負けたら監督のせい、勝ったら選手たち自身が得た勝利だ」と伝えていた

部下が“好き嫌い”を言える環境を作る

――ミレニアル世代やZ世代の部下を育てるために「WILL(やりたいこと)」が重要だと言われています。しかし、何がやりたいのか話してくれない、などコミュニケーションがうまくできないケースも多いようです。

中竹 では、上司たちにはWILLはあるのか、と問うてみたいですね。昔は会社でそんなことを問われることはなかったし、考えたこともなかったのではないか。上司自身も自分のWILLがわからないことを認めたほうがいいし、若い人にもそう伝えたほうがいい。だから、時間をかけて一緒に見つけていこう、と。実際、WILLは変わっていったりもしますから。

 WILLがあることはいいことですが、若い人にとって自分のWILLを上司に伝える際に難しく感じるのは、何かカッコイイことを言わないといけない、と考えてしまいがちだからです。アウトプットを恐れているんです。「そんなものがWILLなのか」とバカにされるのが怖い。だから、上司にとって大事なのは、とりあえずどんなことでもいいから言ってみよう、という姿勢です。そこから、どんどん進化させていけばいい、と。それでも出てこない場合、上司が自分のWILLを伝えていないことが多いです。

――フォロワーシップ型のリーダーを育てていくには、自分なりのスタイルを作ったほうがいい、とも言われています。ただ、若い人は情報過多もあって、自分のスタイルを作ることは苦手なようです。

中竹 たしかにスタイルを見出すのには、難しい時代ですね。スタイルを見つけていくには、まずは好き嫌いを明確にさせるといいと思います。何が好きで、何が嫌いか、しつこいくらいに問いかけていく。食べ物、場所、歌、映画、本、好きな人のタイプなどから、自分が何を大事にしているのかがわかる。これはスタイル探しの大きなヒントとなります。

 ですが、好き嫌いを明確にするのも実は難しいことなのです。これを言ったら誰かを傷つけてしまうかも、嫌な気持ちにさせてしまうかも、ということを考えてしまう。

だからこそ大事なことは、社内で好き嫌いを言える環境を作ることです。そうすることで、上司部下だけでなく部下同士もつながる。上司と一人の部下だけで共有するのではなく、全体の中で共有できると、みんなに配慮が生まれます。スタイルというのは上司部下の関係性の中だけでなく、全体の中で構築されていくものです。

 2016年、ラグビー日本代表の移行期に監督代行をしていたことがあったんですが、短期間でチームを結成して、ゲームを組み立てなければならなくなりました。このときに取り組んだチームビルディングが、一人ひとりの好き嫌いを全員で共有することでした。いろんな好き嫌いを言ってもらって、最後は好きなプレー、嫌いなプレーを語ってもらった。

 驚いたのは、本人の強みから生まれるプレーが、必ずしも好きなプレーとは限らなかったことです。これを全員で理解していたら、試合の中で好きなプレーを叶えてあげたいとみんなが考えるようになる。実現したら、褒め称えるようになる。これによって、短期間で一体感を作っていくことに成功したんです。

取材・文 上阪徹
写真提供 株式会社チームボックス


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本記事は、月刊『理念と経営』2022年2月号「特集1」から抜粋したものです。

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