『理念と経営』WEB記事

商品に秘められたストーリーを顧客に届けるのが店の役割

株式会社ひまわり市場 代表取締役 那波秀和 氏

風光明媚な山梨県・八ヶ岳にあるスーパーマーケット「ひまわり市場」では、県内外からの車がひっきりなしに出入りする。地元住民と八ヶ岳の別荘住民が混じり合った店内は活気にあふれ、ちょっとした特別感が漂う。その特別感の正体は、並べられた商品から「誠実さ」が醸し出される点にありそうだ。

思いを乗せた商品で店内を埋め尽くしたい

「大げさに聞こえるかもしれませんが、地域の人々の身体と人生をつくる大切な食を提供している、という責任感を持ちたい」

そう話すのは社長の那波秀和さんだ。メディアにたびたび登場する有名店となったが、この店を支えているのはリピーターである。購入した商品が期待を裏切らないからだろう。顧客の立場に立った細かい商品説明も特徴だ。

例えば「国内産牛肉小間切」のPOPには、「肉じゃが、牛丼など色んな料理に大活躍です。牛肉の風味をお楽しみください」、「国内産牛モモ肉(カルビ焼用)」には「お子様も大人も大好きな焼肉で家族団らんのひと時を!」とある。一事が万事、この調子なのだ。明らかに手間ひまがかかっている。

「商品は言葉を発しませんから、作り手の思いやお薦めの調理方法を代弁したい。全商品にこうしたPOPをつけたいのですが、現状はそこまでできていないのが課題。言葉には言霊が宿ると信じているので、思いを乗せた商品で店内を埋め尽くしたいです」

有名企業の商品はテレビCMなどで誰もが知っている。だが、せっかく「これは」と思う良い品を仕入れて販売しているのに、値段で比べられたくない、と思ったのがPOPを始めたきっかけだ。店の主人公である商品の価値を紹介するのは、店の役割でもある。

那波さんのマイクパフォーマンスも注目の的だ。届いたばかりの商品やその日の目玉の〝売り〟を軽快な調子でアナウンスする。取材した日は、ひまわり市場に子どもの頃から親と来店していた若手農家のほうれん草を、ストーリーとともに紹介していた。

「POPは通りかからないと読んでいただけませんが、マイクなら別の売り場にいらっしゃるお客様にも伝わります。うちの商品で育った男の子が自分で作った、おいしいほうれん草を持ってきてくれるなんて、こんなうれしいことないですよ。だから、どうしてもお客様に伝えたかった」

テレビで紹介される映像では大音量に聞こえるが、実際は決してうるさくない。説明とユーモア、タイミングや音量の案配は難しく、後輩たちも挑戦中だが、那波さんの技量には、まだ追いつけていない様子だ。だが、チャレンジ精神旺盛な社員たちのおかげで、「業績は右肩上がり」だという。

「利益は働いてくれる人に還元します。やりがいを感じながら働き、豊かに生活してほしい。そうすると、プライベートでも目配りが利き、良い品を見つけられるようにもなります。特に各仕入れ担当者には「自分が買いたくないものは売るな」と言っています。各部門が仕入れた商品を、自信を持って薦めていく。その積み重ねだと思います。多少高くても、価格以上の価値があると信じられる商品を提供すれば、お客様はちゃんと選んでくださいます」

取材・文 中沢明子
撮影 編集部


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本記事は、月刊『理念と経営』2022年1月号「特集2」から抜粋したものです。

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