『理念と経営』WEB記事
特集1
2022年1月号
ペインポイントの模索が社会課題解決への近道

スタンフォード大学アジア太平洋研究所 日本研究プログラム リサーチスカラー 櫛田健児 氏
「社会課題の解決は中小企業にこそたくさんのチャンスがある」と櫛田氏。シリコンバレーの価値のつくり方の基本である“ペインポイント”をキーワードに、その具体的な取り組み方法を紐解いていく。
漠然と捉えるのではなく、具体的な課題に取り組む
――今回のテーマである「社会課題を商機に変える」ためには、何が重要だとお考えですか。
櫛田 日本でよくいわれる、企業の社会課題への取り組みは、イメージが大きすぎて漠然としたものが多いように思います。シリコンバレーの企業の場合は、もっと具体的です。お客様、あるいは自分たちの目の前の具体的なペインポイント(課題)を見つけ出し、それをどう解決するか考えるのです。それが結果として、社会課題の解決につながっていきます。
――例えば、どんな企業事例がありますか。
櫛田 アメリカのテスラ社のEV(電気自動車)の売り上げ台数は、ものすごい勢いで伸びていますが、その出発点は、イーロン・マスクCEOが抱えていたペインポイントでした。それは、このままでは気候変動によって地球がもたないという危機感です。その課題解決のために、彼はEVをつくることを決めました。
そこから段階的にさまざまなペインポイントが見えてきます。まず、EVに乗らない理由として、充電に時間がかかる、走行距離が短いというペインポイントがあります。それを解決するために、短時間で充電できるスーパーチャージャーを自前で27000カ所以上に設置し、さらに、充電場所がどこにあって何台空いているのか一目でわかるよう、車本体に大画面の地図も設置しました。
――具体的ですね。
櫛田 そうです。また、EVで使用する電力を石炭火力で発電するのでは意味がないということで、ソーラーパネル事業を立ち上げました。多くの人にとって、ソーラーパネルは初期設定費用が高いというペインポイントがあるので、その解決のために設備投資なしのサブスクリプションモデルを導入しました。
つまり、ユーザーを中心に据えて、そこにどんなペインポイントがあるかを考え、その解決方法を探し出す中で新たなビジネスをつくり出していくのです。
――日本でそうした取り組みをしている企業はありますか。
櫛田 建設機械メーカーのコマツです。彼らのお客様である建設会社が抱えていたペインポイントは、高齢化による熟練工の不足でした。この課題解決のためにコマツは、シリコンバレーのスタートアップとコラボレーションして、建設現場のICT(情報通信技術)を用いた「スマートコンストラクション」を導入しました。詳細は省きますが、測量や調査をドローンで行い、スピーディーかつ精度の高い測量を可能とし、そこで得た情報をベースに設計図や施工計画書も作成。さらには掘削や盛土などの作業もICT建機を使って行います。少なくとも10年ほどの経験が必要と言われる油圧ショベルで斜面をきれいにする技術も、これを使えば初心者でも可能になります。
取材・文/長野修
本記事は、月刊『理念と経営』2022年1月号「特集1」から抜粋したものです。
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