『理念と経営』WEB記事

差別化を生み出すのは、常に人。だから理念を大事にする

株式会社物語コーポレーション 代表取締役社長 加藤央之 氏

同じことの踏襲では成長はない

――コロナ禍の中ですが、2021(令和3)年は例年を上回るほどの出店ペースです。攻めの経営を続けられる理由は何でしょうか。

加藤 売上高2桁成長を唱えて、これまで毎年40~50店を出店してきました。外食の回数が減ったとしても、選ばれる要素が強い店は生き残っています。強気の出店は、「焼肉きんぐ」を筆頭に、選ばれる店になってきていることが、その理由です。

店舗数がグループ全体で約270店舗となり、ブランド認知が進んだこと、われわれが「おせっかい」と呼んでいるスタッフの接客や「焼肉ポリス」などのサービスが支持をいただいていることもありますが、やはり選ばれる店づくりを続けてきたことが大きいと思っています。

――なぜ、選ばれる店が実現できているのでしょうか。

加藤 一番の源泉は、理念と文化だと考えています。もちろん「焼肉きんぐ」なら、食べ放題の概念を変えたことも大きいでしょう。食べ放題なのに席に座ったままタッチパネルで注文でき、質のいいお肉が食べられ、店員さんも親切。かつての安かろう悪かろうのイメージをくつがえしたわけです。

しかし、仕組みや構造は真似されてしまいます。実は本当の企業の強さは見えないところにあるんです。小さな差別化の積み重ねです。これは、真似できない。それを実現しているのが、理念と文化です。

例えば2980円(税込3278円)の食べ放題のビジネスでは当然、原価率が高くなる。ここで、どれだけ質のいいお肉をメニューに入れられるか。味わいをどうコントロールして、いろんな味で食べてもらうか。原価を上がらないようにしながら、顧客満足度をどう高めるか。その実現には、ものすごく細かな仕掛けがたくさんあります。細かな分析の積み上げがあって、2980円(税込3278円)のコースは実現されているんです。そして、こうした一つひとつについて、山ほどの改善を繰り返し、進化し続けている。これが、選ばれる店づくりのすべての本質です。

――その理念と文化とは、どのようなものなのでしょうか。

加藤 私たちは「Smile & Sexy」という経営理念を掲げています。「Sexy」は社員一人ひとりが思ったことを率直に発言や表現すること。「Smile」はそれを受け入れてもらうためにも人間力を磨くこと。つまり自らを表現する人が、応援される自分づくりをしていくことです。それは自己実現につながります。自分の言葉が会社の成長につながるから。自分の存在意義がわかるから。自分のオリジナリティをつくれたり、自分の人生を生きられるから。自分だけの物語をつくることができるんです。だからこそ、どんどん意見が集まって、進化し続けられる。

飲食店の既存店は、普通にやっていたら売り上げを落としていくものです。前年までと同じことを踏襲していたら、成長はまずない。課題を克服したり、新しい取り組みをしないと、もう選んではもらえない。だから、現場からどんどん提案が欲しいわけですが、これが簡単ではありません。一度完成したものに異いを唱えることは苦労を伴うからです。会社目線で「意見を言おう」と発信しても出てくるものではないんです。

重要なことは、社員が自発的に、自分のために問題提起をしたり声を上げられることです。だからこれを理念にし、文化にする。採用も、会社に合った人財を選ぶ理念型の採用をする。一人ひとりにこの理念が浸透すれば、圧倒的な数の声が上がってきます。そうすることで現場は変わり続けていく。お店は小さな課題をクリアし、独自で新しい取り組みに挑み、進化し続けられるんです。

取材・文 上阪 徹
撮影 編集部


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本記事は、月刊『理念と経営』2021年12月号「特集 2021年を闘った人【経営者編】」から抜粋したものです。

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