『理念と経営』WEB記事

ウチナーンチュが愛してやまないブランドになろう

フォーモストブルーシール株式会社
代表取締役 山本隆二 氏

沖縄を訪れたら、必ず街中や空港で見かけたり、食べたりする「ブルーシール」のアイスクリーム。だが、コロナ禍によって観光需要は冷え込み、過去最大の減収を余儀なくされた。難局を乗り越えるために山本社長が踏み切った〝ウチナーンチュシフト〟に込めた思い――。

商品1個につき1円を首里城復興事業に寄付

 開口一番「ハイサイ!」と言いながら、リモート取材の画面の向こう側で手を振る山本さん。ハイサイとは沖縄方言で「元気?」「こんにちは!」を意味する親しみを込めた挨拶だ。そして沖縄の人を“ウチナーンチュ”、本土の人を“ヤマトンチュ”と呼ぶ。郷土愛が強い沖縄らしい方言で、ここに沖縄におけるビジネスの肝がある。

「2020(令和2)年の売り上げは7億5000万円の減収でした。過去最大の下げ幅です。何しろ、19年は1016万人の観光客だったのが、昨年は373万人。インバウンドも含め10年間、観光客が増え続けていた沖縄ですから、大打撃です。弊社としても企業努力でなんとかなるレベルを超えている。そこで、観光客を呼んでいたのはブルーシールではない、という当たり前の事実に正面から向き合いました。右肩上がりの売り上げのなかでわれわれは、もっとも大切な顧客であるウチナーンチュをちゃんと見なくなっていたのではないか、という反省です。弊社は1948(昭和23)年に米軍基地内で誕生して以来、沖縄とともに歩んできました。今後ももちろん、沖縄で末長く成長していきたい。実はコロナ禍前から改めて沖縄に特化した販売方法を探ろうとしていたところだったので、やるべきことが見え始めていました。そこで “ウチナーンチュシフト”を明確に打ち出すことにしたのです」

 たとえば、今年4月には看板商品を大リニューアル。カップアイスクリームの紙製のフタを廃し、シールでフタをする仕様に変更した。削減できた紙資源6t分の経費で中身を2割増量すると、初月に従来比3倍の売り上げに。観光客激減の最中、地産地消需要として、ウチナーンチュが買い求めたからこそ実現した結果である。

「いわゆるナショナルブランドのアイスクリームに比べてコストパフォーマンスが悪い、という県内のお客様の声がありました。沖縄ブランドとして県内スーパーのアイスの売り上げ一位になる、という弊社の目標に一歩近づけたと思います」

 もうひとつ、このカップアイスが県内で熱烈に支持された理由がある。
2019(令和元)年10月に火災で大部分を焼失した首里城の災難は記憶に新しいが、商品1個につき1円が復興資金に寄付される仕組みをつけたところ、大きな反響を呼んだ。〝たった1円〟かもしれないが、アイスを通してブルーシールと地元の顧客がひとつになれる、大きな価値のある1円となった。

「ウチナーンチュにとって首里城は大切な存在。弊社に出来る施策を検討し、このアイデアを採用しました。想定外のこともあって、あるコンビニが自主的に『ブルーシールを食べて、首里城を応援しようぜ』という大きなPOPをつけてくれて。心からうれしかったです」

また、県内での販売ルートも見直し、ホームセンターやショッピングセンターなどにキッチンカーで臨機応変に売りに行くようにした。
「お客様が日常の中でアイスを食べたいと思う場所に合わせて、こちらから出かけていくことにしました。おかげさまで好評です」


取材・文 中沢明子
写真提供 フォーモストブルーシール株式会社


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本記事は、月刊『理念と経営』2021年11月号「特集2」から抜粋したものです。

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