『理念と経営』WEB記事

渋沢栄一が私たちに託した未来

シブサワ・アンド・カンパニー株式会社 
代表取締役 渋澤健 氏

新型コロナウイルスの蔓延で変革を求められる今、渋沢栄一の合本主義や『論語と算盤』に書かれた言葉は人々の指針になると言っても過言ではない。渋沢栄一の五代目の子孫にあたる渋澤健氏が語る、渋沢が描いた未来――。

渋沢栄一という人間は究極の未来志向である

 自分が渋沢栄一の子孫だということは、子どものころから知っていました。しかし、彼の言葉ときちんと向き合ったのは、40歳を過ぎてからです。
 栄一の講演録や発言集には、これから独立して会社を立ち上げようと考えていた私に勇気を与え、指針となるような言葉があふれていました。ひいひいじいさんは子孫に財産を残さなかったときいていましたがとんでもない、実はこんなに素晴らしい、しかも相続税のかからない財産を残してくれていたのです。

 究極の未来志向。栄一という人間の考え方をひと言で表現するとこうなります。彼のどの文章を読んでも、いまよりもっと良い社会をつくるのだという意思がその行間から伝わってくるのです。同時に、彼は、国民一人ひとりが当事者意識を持って社会の構築に取り組めば必ず成し遂げられるという信念を持っていました。

 明治6(1873)年に日本初の銀行となる第一国立銀行を発足する際も彼は広告文で「人の懐にあるお金は、ぽたぽた垂れているしずくと変わらないが、そのしずくの一滴一滴を集めれば大河になる」とその意義を説明しています。

 栄一が目指していたのは一部の資本家が利益を増やすことではなく、大勢の力を合わせて社会価値を最大化すること。だから、資本主義とはいわず「合本主義」という言葉を使ったのです。

「と(and)」で考える若い世代が未来を拓く

 渋沢栄一といえば最も有名なのは『論語と算盤』でしょう。当社でも2008年からその内容を読み解き現代の経営や人生に生かす「『論語と算盤』経営塾」を主催しています。
 なぜこの本が時を超えて読み続けられるのか。それは論語と算盤の関係性を「か(or)」ではなく「と(and)」にしたところにあると私はみています。どちらか一方に決めたほうが効率的なのは間違いありません。しかし、orだけでは新しい価値は生まれてこない。異なるものをandで結ぶから化学反応しイノベーションが起きるのです。

 とくに、現代のような変化の激しい時代に、算盤を弾いて利益だけを追求していても、新しいクリエーションは生まれません。つまり、andでないと大きく発展することはできないのです。
 日本はバブル崩壊以降、環境の変化を軽視してandで新しい価値を創造しようとせず、orでひたすら効率ばかりを求めてきました。それが結果として失われた30年になったのです。おそらく栄一がいまの日本を見たら、いったい何をしているのだと激怒するはずです。

 でも、私は日本の未来を悲観してはいません。なぜなら、ジャパン・バッシングからジャパン・パッシングへと世界経済の中で日本のプレゼンスが凋落するのを経験してもなお、高度経済成長やバブルのころの呪縛から逃れられなかった世代が間もなく第一線から退き、この国ではこれから40代以下が主役になるからです。彼らにはもともと成功体験といえるようなものがないので、好奇心の赴くままにイマジネーションに富んだ発想ができる。
 環境の変化に適応できるのはこういう人たちなのです。

取材・文/山口雅之
写真提供/シブサワ・アンド・カンパニー株式会社


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本記事は、月刊『理念と経営』2021年11月号「特集1」から抜粋したものです。

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