『理念と経営』WEB記事

生活の変化に対応した、 “ちょっとしたサービス”を

株式会社矢島商会 代表取締役 矢島裕之氏

リモートワークの普及でワイシャツやスーツの着用機会が減り、〝クリーニング離れ〟が進む。それでも、矢島商会が好調なのは「プラスワンサービス」による差別化にその要因がある。業界の常識に縛られない柔軟な発想が、今、求められている。

「プラスワン」で顧客の心を動かす

コロナ禍で打撃を受けているのは、飲食・運輸・観光業界などだけではない。クリーニング業界も深刻な状況に陥っている。リモートワークが進み、ワイシャツやスーツの着用機会が激減したことが影響しているのである。

そんな厳しい環境下でも新たなビジネスチャンスを切り開きながら着実に売り上げを伸ばしているのが、東京・埼玉でクリーニング店を展開する矢島商会だ。同社の矢島裕之社長は、業界の厳しい現状についてこう述べる。
「実はコロナ禍以前から厳しい状況はありました。背景にあるのはファストファッションの普及です。安い服のメンテナンスにお金をかけることはしませんから、収益の減少傾向はずっと続いていたのです。そこにコロナ禍がダブルパンチになって大きな痛手になっています」

そんななかでも売り上げを着実に伸ばしているのはなぜか。それはコロナ禍の社会変化にうまく対応し、新たなビジネスチャンスを開拓しているからだ。

矢島商会には大きく分けると二つの業態がある。東京・埼玉で70のリアル店舗を展開している「NICEクリーニング」と、インターネット宅配ビジネスの「クリーニング東京」だ。ネットで24時間注文ができ宅配便で受け渡しができるというその利便性に加え、店舗での直接対面がないので感染リスクも低い。リアル店舗のほうはコロナ禍で苦戦を強いられているが、ネット宅配は昨年比約3倍の売り上げとなり、リアル店舗の減収分をカバーして余りあるものとなっている。

クリーニング東京のさまざまなサービスのなかでも最も人気が高いのが保管サービスだ。冬物などをまとめて出すと、それを最大11カ月まで会社で保管してくれる。家庭にとってはクローゼットにスペースが生まれて助かるし、矢島商会にとってもメリットがあった。通常、冬物を受け取る時期は工場が大混雑するのだが、保管の場合は衣類を預かったその日のうちに作業をしなくてもよくなるので、仕事の平準化につながったのだ。

こうしたネット宅配や衣類の保管サービスは、他社でも行っているところはある。しかしクリーニング東京がここまで好調なのは、他社との差別化に力を入れているからだ。キーワードは、「プラスワンサービス」。

「他社ではやっていないちょっとしたサービスを加えることで、お客様は当社を選んでくださいます。特にネットでのビジネスは、サービスと価格で目を引かないとお客様の心は動きません」

たとえば、毛玉除去、ボタンの取り付け、ホコリやモヘアの移り毛の除去、抗菌・防カビ・帯電防止加工が標準オプションとなっているうえに、シミ抜きまで基本、無料なのだ。
「クリーニングの最終的な差別化は、シミ抜きです。それができれば評価は高まりますが、失敗するとガタ落ちします。当社はこのシミ抜き技術で高い評価をいただいているのです」
 詳細は省くが、矢島社長の持つシミ抜き技術は、「不入流(いらずりゅう)」と呼ばれる流派の技術。「こんなシミ、絶対にとれるはずがない」と思えるようなシミもあっという間にきれいになる、驚くほどの鮮やかさである。

コロナ禍によって新たな需要が見えた

「感染症拡大が収束しても以前の状態には戻らないと思います」という矢島社長は、商機をつかむための新たな挑戦を止めない。

取材・文 長野 修
撮影   小川佳之


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本記事は、月刊『理念と経営』2021年10月号「特集1」から抜粋したものです。

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