『理念と経営』WEB記事

水インフラの『制約』から人々を解放する

WOTA株式会社 代表取締役社長CEO 前田瑶介氏

「水道がなければ水は使えない」。私たちは、そう思い込んでいないだろうか。WOTAが開発した自律分散型水循環システムや水循環型手洗い機は、排水の98%以上の再生・循環利用を可能にする。つまり、水道がなくても、シャワーを浴びたり、手を洗ったりできるのだ。同社が描く未来とは――。

目指すのは水が潤沢にある状態

東京・豊島区の都電荒川線・巣鴨新田駅から徒歩数分、陽炎が立つような真夏の閑静な住宅街を歩くと、かつては印刷工場だったという2階建てのその建物はあった。

シャッターの閉まっている1階には、さまざまな配管につながれた水処理の機器が置かれ、その日も大学の研究者のような若い社員が作業をしていた。自律分散型水循環システム「WOTA BOX」、ドラム缶をデザインに取り入れた水循環型手洗い機「WOSH」を展開するWOTAの拠点――同社の第一印象は大学の工学部の研究棟に似ているというものだった。

「僕らが目指しているのは、とてもシンプルなことなんです」。2階のオフィススペースで会った代表の前田瑶介さんが言った。

「上下水道に依存しない新しい水インフラを作り、必要な場所で必要なとき、必要なだけ水を使えるようにする―。水の自由を得られれば、人はさまざまな住まい方ができるようになります。それぞれの人が、それぞれの場所で、『こういうふうに暮らしたい』という思いを実現できるわけです」

物静かに発せられる言葉の一つひとつに、明確な意思と力強さを感じさせる人だ。

彼の言葉通り、同社が目指すのは人と水の関係における制約をなくすこと。具体的には水道インフラに依存しない自律型の「小さな水循環システム」を普及させ、どんな場所であっても潤沢な水利用を可能にすることだ。

「WOTA BOX」「WOSH」ともにAI(人工知能)と水質センサーを搭載。数種類のフィルターによる濾過と深紫外線照射、塩素添加により水を浄化して再利用する製品である。その再利用率は98%以上にものぼり、前者では100リットルの水で100人がシャワーを浴びられる。後者でも20リットルの水で500回以上の手洗いを可能にしており、コロナ禍のなかで飲食店などの入り口に次々と設置されている。水処理のデータはクラウドサーバーですべて解析されるため、普及が進むほどに処理が効率化され、コストも下がっていくというモデルだ。

そんなWOTAの製品の社会的意義が象徴的に発信されたのは、2018(平成30)年7月の西日本豪雨の際だった。当時、同社は豪雨災害の被災地となった岡山県倉敷市の真備町に、もとはキャンピングカーやオフィスでの活用を想定していたWOTA BOXの試作機を持ち込んだ。

「最初は素朴な支援の気持ちで被災地に向かったのですが、結果的にそれが実践と学びの場になったんです」と前田さんは振り返る。

豪雨災害の被災地では水道インフラが機能せず、300人近い被災者が狭い体育館で生活していた。2週間以上にわたって体を洗えていない人も多く、避難所に漂っていたのは混沌として張り詰めた空気だった。

WOTAの可搬式のシャワーは、当然のことながら大きな喜びとともに受け入れられた。試作機で久々のシャワーを浴びたとき、心からの笑顔を浮かべた人たちの姿を前田さんは忘れられない。なかには思わず涙を浮かべた子どももいたという。

取材・文 稲泉 連
撮影 編集部


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本記事は、月刊『理念と経営』2021年10月号「スタートアップ物語」から抜粋したものです。

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