『理念と経営』WEB記事

味噌と並ぶ新たな柱を全社員で育てていく

ハナマルキ株式会社 代表取締役社長 花岡俊夫氏

「おみそなら、ハナマルキ」のCMでお馴染みの同社は、今年で創業103年を迎える。創業から長く味噌事業を進めてきたが、新たな光明をもたらせたのは、社長の閃きとユーザーの声であった。全社一丸となって起こす老舗企業のイノベーションに迫る。

ユーザーの声で生まれた新商品「液体塩こうじ」

肉や魚を漬け込むと柔らかくなり、旨味も出る。野菜の甘みを引き出してくれる。そんな発酵調味料「塩こうじ」のブームが起きて10年が過ぎた。数多くのメーカーが商品を発売したが、その中で一頭地を抜いているのが味噌の大手メーカー・ハナマルキが開発した「液体塩こうじ」である。
塩こうじを液体にすることで、手軽さと同時に用途を大きく広げたのだった。今では和食はもとよりイタリアンやフレンチをはじめスイーツにも使われている。

――2012(平成24)年の発売以来、「液体塩こうじ」はオンリーワン商品ですね。

花岡 はい。「液体塩こうじ」は製造特許を取得している、オリジナルの商品です。

――消費者に人気の商品を表彰する「日経POSセレクション」で、液体塩こうじは一昨年、昨年と二年連続で選ばれました。この要因はどこにあるとお考えですか?

花岡 例えば液体塩こうじを唐揚げなどに、実際に使っていただくと「これは、美味しくて柔らかい」と驚かれます。そうした違いを経験されて、また使ってみようと思う。その「驚き」の積み重ねで徐々に広がってきたのだと思います。

――液体化の発想は社長の閃きだったと伺っています。

花岡 具体的な方法は私の閃きだったのですが、液体化はお客様の声がヒントになりました。商品開発で一番大切なのは、やはりユーザーの声です。いつも営業の社員たちには、お客様が何を要望しているか、つぶさに報告してほしいと伝えています。

――その一つに液体化もあったと。

花岡 そうです。当社も塩こうじブームが起きたときに、乗り遅れてはいけないと塩こうじ商品を発売しました。その中で、お惣菜やお弁当などを作っておられるお客様から「塩こうじを使って調理したときにどうしても塩こうじの粒が残ってしまう。それを取るのが面倒だ」という声がありました。「液体ならいいんだけど」とおっしゃる。

――なるほど……。

花岡 それで、液体にするいい方法はないかなと考えるようになったのです。そんなとき、偶然、とある酒蔵に見学に行きました。そこで日本酒の原料になる〝もろみ〞の発酵タンクを覗のぞいたときに、これは塩こうじのもろみとよく似ていると思いました。日本酒は、もろみを搾しぼった液体を熟成させたものです。そこで、塩こうじも搾ってみようかと思ったんです。
  実際に搾ると、こうじ菌が生み出す酵素のほとんどが失われないこともわかりました。なら、すぐにでも製品化しようと決めたわけです。


商品開発への積極性は父の影響と業界の危機感

ハナマルキは、1918(大正7)年に、長野県辰野町で創業した。花岡さんの父、二代目の金郎さんが進取の気性に富む人物で、戦後の社会の変化に敏感に対応する形で、小さな信州の味噌屋を企業に育てていったのだった。
工場の機械化を推進し、「おみそなら、ハナマルキ」のCMを定着させ、食品スーパーが登場したときは量り売りではない袋詰めの味噌『おかあさん』を発売しヒットさせた。味噌汁のインスタント化にも早くから取り組んできた。

――ハナマルキは商品開発を積極的にやっておられますね。

花岡 やはりメーカーの本分は製品です。常によりよい製品を開発していくのは当然のことだと思っています。一つは父の影響も大きいかもしれません。父は絶えず新しい商品開発ができないかと考えているような人でした。あと危機感も背景にあったと思います。

――危機感と言いますと?

花岡 味噌の消費量は、1982(昭和57)年をピークにどんどん減り続けているのです。私は74(同49)年入社ですが、そのころから常に危機意識はありました。だから、いろいろと商品開発を進めてきましたし、味噌の工場としてはいち早くHACCPやISOなどの国際食品安全基準も取得してきました。これまでの新製品は味噌にまつわるものだったのですが、塩こうじは100年の当社の歴史の中で、はじめての味噌以外の商品なのです。

――今は売り上げのどれくらいを占めているのでしょうか?

花岡 塩こうじ事業の売り上げは、全社売り上げのまだ7%程度です。「液体塩こうじ」は、まったく新しい調味料ですから、放っておけば消えてなくなるかもしれません。なんとか味噌や醤油のように、どの家庭にもある常備調味料になるように、あらゆる努力を続けているのです。

――「液体塩こうじ」を味噌と並ぶ、もう一つの柱に育てたいということですね。

花岡 そうです。そのために参考にしたのが、実は「みりん」なんです。昔、みりんはお正月くらいにしか使わないような高級調味料でした。戦後、このままではなくなってしまうという危機感があったらしいのです。そこで、みりんを普及させるために何をやったのかを調べると、徹底的に料理教室を開いたのだそうです。

――その努力の結果、みりんが常備品の調味料になったわけですね。

花岡 そうなんです。私たちもそれをやろうと、例えばテレビで塩こうじを使った料理を紹介する90秒CMを流したりする一方で、業務用では当社の二階にあるテストキッチンにお客様を招いて料理を実際に作って食べていだいたりと地道な営業を続けています。


取材・文/中之町新
撮影/鷹野晃
写真提供/ハナマルキ株式会社


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本記事は、月刊『理念と経営』2021年9月号「企業事例1」から抜粋したものです。

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