『理念と経営』WEB記事
特集1
2021年8月号
日本は技術力を武器に自社ブランドを構築すべし

btrax, Inc. CEO Brandon K. Hill(ブランドン・K・ヒル氏)
サンフランシスコで活躍する経営者・ブランドン氏は、日本の技術力は世界的に評価されている一方、リスクもあると語る。海外進出を図る上で日本企業に足りない視点とは何か。
「日本製だから素晴らしい」は世界の流れと逆行している
長くアメリカに暮らしていますが、この10年ほどの日本製品のイメージは、安くて品質がいい、というものです。端的にいえば、コスパがいい。値段のわりに性能がいい。他の国はなかなかそれが真似できない。ただ単に日本は作業効率がいいに違いない、と思えるわけですが、実はそこに別の秘密があったことは、日本に出張したときに知りました。
ある繊維系の商品の製造現場を見せてもらったのですが、テクノロジーがすごいわけでも、難易度の高い複雑な作業をしているわけでもなかった。驚いたのは、働いている人たちのモノづくりの姿勢や、その工程の繊細さだったんです。繊細な感覚、誠実さ、忍耐力。これは、日本でしかできない、と思いました。日本の技術力がなぜ、世界的にすごいのか。これが本当の理由だと感じました。
しかし、それを世界の人が理解しているのかといえば、そうではありません。また、そこまでのレベルの製品を世界のすべての人が求めているのかというと、これも違う。ハードウェア的な精度の高さはたしかに魅力ですが、今や商品の強みはソフトウェアが大きく左右しているのも事実です。このあたりが、日本の持たれているイメージは薄い。
また今、ブランドとして、「Made in 国名」があまり意味をなさない時代になったので、あえてその国らしさを出さない、透明な雰囲気の方が違和感なく受け入れられる傾向も感じます。韓国のサムスンやLGがうまいのは、実はどこの国の会社なのか、アメリカ人はよくわかっていないことです。そしてサムスンやLGも、あえて韓国発である、という発信をしない。どこの国が作ったものか、ということは、むしろ意識させないほうがいいのです。
実際、アメリカでも日本のユニクロ、MUJI、DAISOは人気ですが、この三社が日本の会社だとわかっているアメリカ人はそれほど多くないと思います。会社側も、よくわかっていて、無国籍感をあえて出そうとしているはずです。そんなことよりも、品質とコストでバランスが良ければ、人々に喜ばれるからです。日本製だから素晴らしい、と反射的に言われたのは、もう十数年前の話だと認識する必要があります。
取材・文/上阪徹
写真提供/btrax,Inc.
本記事は、月刊『理念と経営』2021年8月号「特集1」から抜粋したものです。
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