『理念と経営』WEB記事

「異文化の衝突」から、革新は生まれる

株式会社ローンディール
代表取締役 原田未来 氏

大企業で働く社員を一定期間、ベンチャー企業で武者修行させる「企業間レンタル移籍」の事業会社を起こした原田未来社長は、これまで、異文化のぶつかり合いのなかから生まれる新しい自己発見の現場を何度も目にしてきたという。ローンディールが手掛ける人材交流の取り組みから、「つながり」が持つ経営の可能性を考察する。

スキルは通用するが
マインドセットは通用しない

——今回の特集のテーマは、「企業間連携」です。御社の「企業間レンタル移籍」は、まさに大企業とベンチャー企業の“人的連携”によって、互いの弱みを補い強みを強化するビジネスモデルです。まずは、このビジネスモデルの概要について教えてください。
原田未来 “人材育成”をしたい大企業と、“事業強化”をしたいベンチャー企業をマッチングするビジネスです。大企業から育成したい人材をベンチャー企業に出向または研修派遣という形で移籍させます。
 2015(平成27)年にサービスを開始して以来、導入してくださった大企業は、トヨタ自動車、経済産業省、NTT西日本など、47社。レンタル移籍者は130名を超えています。
——移籍させる側、受け入れる側、双方の目的は何ですか。
原田 まず移籍させる大企業にとっての目的は、人材育成です。自社では得難い創造と変革に必要なマインドセット(思考様式)を、ベンチャー企業で身に付けさせるのです。
 2010年代、コーポレートベンチャーキャピタルやアクセラレーションプログラムなどが注目されました。独創的な技術やアイディアを持つベンチャー企業と大企業が連携することによって新製品や新市場の開拓ができるのではないか、という考え方が広く行き渡っていたためです。ただし、そういう仕組みを作ったとしても、そこで働く人のマインドが変わらなければ、うまくいきません。大企業にありがちな石橋を叩いて渡るような思考法を改め、スピード感をもってゼロから物事を始める発想力・行動力を身に付ける。そんなニーズが生まれていたのです。
——大企業で経験を積んできた人は、ベンチャー企業で通用しますか。
原田 スキルは通用しますが、マインドセットは最初は通用しないことが多いです。大企業ではやるべきことは決まっていますが、ベンチャーでは何をどうするかを自分で決めなければなりません。その意識変革が大変で、それを経験するからこそ、大企業にとっては人材育成の大きなメリットとなるわけです。
——一方、受け入れるベンチャー企業にとっての目的は何ですか。
原田 人材不足を補うためです。ベンチャー企業にとって、最近では資金調達よりも良い人材の確保が大変で、それゆえに事業が進まないということがよくあります。そこで、大企業の優秀な人材を即戦力として活用することで成長の起爆剤とするのです。

押し付けるのではなく、
歩み寄れる素直さが必要

——レンタル移籍をすることで、大企業側にはどのような変化が起きますか。
原田 成長した社員が自社に戻ると、ベンチャーの視点が社内に持ち込まれます。実際、彼らが戻ってから2、3年後に、大きな仕事を任されて、新たな成長の起爆剤になることが多いようです。
——一方、移籍を受け入れるベンチャー企業側にはどのような変化が生まれますか。
原田 即戦力となることはもちろん、最近では、彼らが作った新たな仕事やポジションが、その後、その企業の主力になるということも起きています。いずれも、異なる文化を持つ企業同士がぶつかり合うことで生まれる新しい自己発見のようなものです。
——掛け合わせを成功させるポイントは、何でしょうか。
原田 人的な部分で言えば、素直さが大事だと思います。大企業とベンチャーはどちらが偉いというものではありません。双方に強みと弱みがあるわけですから、どちらか片方のやり方を押し付けるのではなく、双方が歩み寄れる素直さがあってはじめて新たな価値が生まれてくると思います。

自社に眠っている経営資源を
交流によって活性化させる

——「レンタル移籍」というビジネスモデルを思いつくきっかけは何だったのでしょうか。
原田 私は以前、卸サイトや決済サービスを展開する創業間もない時期のラクーンに入社しました。そこで営業部長や新規事業責任者を歴任し、マザーズ上場を経験することもできました。だけれども、心のどこかに「このままこの場所にいていいのだろうか」という漠然とした葛藤を抱えていました。いろんな会社でいろんな経験を積むことでスキルアップができるのではないかと思っていたのです。その後、カカクコムという成熟したIT企業に転職したのですが、フェーズの異なる二つの企業を経験したことで、なお一層、“外から会社を見ることの重要性”を痛感し、「レンタル移籍」というビジネスモデルをやろうと決めました。


写真提供 株式会社ローンディール
取材・文 長野 修


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本記事は、月刊『理念と経営』2021年6月号「特集」から抜粋したものです。

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