『理念と経営』WEB記事

お客様を惹きつける世界一のお菓子屋を目指す

株式会社シュゼット・ホールディングス
代表取締役社長 蟻田剛毅 氏

百貨店のスイーツ売り場などで目にする洋菓子ブランド「アンリ・シャルパンティエ」と言えば、フィナンシェが有名だ。一日八万個以上も売れ、昨年は六年連続のギネス世界記録に認定された。お客様から愛され、選ばれ続けている理由は何か。それは、フィナンシェに主軸を置き、質を追求する「原点回帰」の精神にあった。

看板商品の強化が
会社を成功に導いた

1年間に2900万個以上も売り上げる焼き菓子がある。シュゼットグループの主力ブランド
「アンリ・シャルパンティエ」のフィナンシェだ。2015(平成27)年以降、一年間で最も売れた菓子として六年連続でギネス世界記録に認定された。同社では1975(昭和50)年から贈答用の焼き菓子としてフィナンシェの販売を始めている。本場フランスのものは平たく堅いが、アンリのものは〝ふわっとしっとり〟のオリジナルなのである。
―お菓子部門で六年連続は世界初の快挙だそうですね。売れる秘訣は何ですか?
蟻田 ずっと続けてきたことだと思います。だから長年多くのお客様にご愛顧いただけていると思うんです。だけど私が入社したときは、フィナンシェは売り場の片隅に追いやられていたんですよ。
―確か2007(平成19)年の入社でしたね。
蟻田 そうです。池袋の百貨店の直営店にいた時なんですが、ショーケースのメインには新商品ばかり置かれていました。その後、本社に配属になり、会社の数字を見ると売り上げの中心はフィナンシェだということがわかりました。
―看板商品だったわけですね。
蟻田 そうです。ですが、会社としてはあまり力を入れない状態でした。当時は、創業者である父が経営の一線を退いていて、外部から社長をお迎えしていたのです。力を入れていないから、だんだんフィナンシェの売り上げも落ち、会社も減収になっていきました。そもそも会社が成功してきたのはフィナンシェのおかげだったのに、人間はそれが空気や水のようにあまりにも当たり前になると、その大事さを忘れてしまうんですね。それで私が社長になった時に、「フィナンシェが一番大事や」と改めて力を入れていくことにしたんです。これは亡くなった父の遺言でもありました。
―味わいも変えているんですか?
蟻田 基本のレシピは変えていませんが、バージョンアップはしてきました。フィナンシェはアーモンドパウダーを使うお菓子です。しかしパウダーは酸化しやすいんです。アーモンドの風合いをより立たせようと生地を作る直前にアーモンドを挽く工程を入れるなど、工夫を重ねています。


売り上げ低迷の危機から
経営改革に踏み切る

アポロ11号が月面着陸に成功した1969(昭和44)年。阪神電鉄芦屋駅前に瀟洒な喫茶店「アンリ・シャルパンティエ」が開店した。オーナーは、デザートに魅せられ、コック見習いからデザート世界に転身した蟻田尚邦さんである。これがシュゼットグループの最初の小さな一歩だった。その後、百貨店に出店し、テイクアウトの洋菓子店として事業を拡大していった。ところが、現社長である剛毅氏が本社勤務になった頃から、売り上げが低迷し始めたという。
―本社勤務はいつ頃からですか?
蟻田 入社した翌年です。
―本社はどんな様子でした?
蟻田 気になったのは現場の情報があまり本社に入っていないことでした。だから現場の声が施策に活かされていなかったのです。本社では全体の売り上げだけを見て、なんとかしなければと流行りのお菓子をまねて新製品を出し、売れなければ次を出すということを矢継ぎ早に続けていました。
―悪循環ですね。
蟻田 こんなこともありました。例えば百貨店から限定品を出してほしいと言われた時、原価計算をしていたら納期に間に合わないと原価計算すらもしないで作ってしまう。そういう中で売り上げが落ちてきたんです。
―一番の原因は何でしょう?
蟻田 いま思えば、時代の変化についていけなかったことだと思います。百貨店に直営店を作っていくことで伸びてきた会社だったので、そこに安住していたのです。
―そんな中で経営改革プロジェクトを立ち上げたそうですが……
蟻田 父の声がけで、私のビジネススクール時代の恩師にきていただいたり、カイゼンの専門家の先生にきていただいたりして、第三者の目で助言をしてもらっていました。プロジェクトをスタートさせた年に、売り上げが一気に落ちたのです。がんを患っていた父も放っておけないということで、経営会議とプロジェクトの日には会社にくるようになりました。二代目の社長が辞意を表明したこともあり、一年後に私を社長にすると決意したんです。
―そのときに副社長になられたと伺っています。
蟻田 無任所の副社長になりました。父としては、この一年で会社をリバイバルさせるプランを作っておけという気持ちだったのでしょう。その間、私は他社を訪問したり、会社の現状を把握したりするために200名ほどいた係長以上の役職者のみなさんと対話を重ねていきました。その中で感じたのは、会社が置かれた状態を把握しているのは、幹部よりむしろ現場の社員たちだということでした。


取材・文/中之町新
撮影/鷹野晃
写真提供/株式会社シュゼット・ホールディングス


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本記事は、月刊『理念と経営』2021年6月号「企業事例1」から抜粋したものです。

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