『理念と経営』WEB記事

“遠くをはかる者”は生き残る

視線を上げればマーケットは無限にある

株式会社西村プレシジョン
代表取締役 西村昭宏 氏

地場産業の眼鏡関連が縮小するなか、インターネットでいち早く「眼鏡以外」に活路を開いた西村社長。その挑戦は自社の技術を信じることから始まった。

見て盗まれる技術なんて技術じゃない

「おまえは会社をつぶす気か」
 会社の設備や技術を誰もが閲覧できるようインターネットで公開するという西村昭宏氏の提案に、父は激怒した。

眼鏡の産地として広く知られている福井県鯖江市で、半世紀にわたってチタン製眼鏡部品の製造を行ってきた西村金属だったが、2000(平成12)年ごろから眼鏡メーカーの中国シフトが顕著となり、03(同15)年に西村氏が入社したときには、会社の存続も危ぶまれるほどに追い込まれていた。

2代目社長の父が、東京から戻った西村氏に期待したのは本業の立て直しだった。だが、どうあがいたところで鯖江の眼鏡産業の衰退は止められないと判断した彼は、これまでとは違う市場に活路を見いだすと決める。

「まずは、すべてをオープンにすることにしました。そうすればこれまで縁がなかった人たちも、当社の高いチタン切削加工技術に関心を持ってくれると考えたのです。父は、そんなことをしたら技術が盗まれると強硬に反対しましたが、見て盗まれる技術なんて技術じゃないと突っぱねました」

それまでIT業界に身を置いていた西村氏には、普及し始めたインターネットの力だけでなく、長年かけて現場に蓄積された経験のようなネットでは伝えられない情報にこそ、会社の真の価値が宿っていることもわかっていたのだ。

もちろん、それで必ずうまくいくという確証があったわけではない。西村氏は自分の信じる未来に懸けたのである。

その勇気が吉と出た。ほどなくして西村金属には、医療関係、半導体、航空機など幅広い業界の企業から問い合わせが殺到する。

「こんなことはできないかという多種多様な質問や要望に、チタンにはこんなにも可能性があったのかと、逆に驚かされました。自分たちの技術がどこでどんな役に立つのか、お
客様がすべて教えてくれたのです」

さまざまなニーズに必死に対応しているうちに、気づけば売り上げは5年間で2.5倍と、会社は見事にV字回復を果たしたのである。一方で、眼鏡産業以外に手を広げることを快く思わない周囲の声も、少なからず耳に届いていた。

すると、西村氏は新たな行動を起こす。同業者に協業を呼びかけ始めたのだ。しかも、求められれば情報発信やブランディングなどのノウハウも惜しげもなく提供した。こうして地域ブランド「チタンクリエーター福井」が立ち上がる。

「私は生まれ育った鯖江が大好きで、地域の技術や雇用を守りたいとずっと思っていました。それには自分の会社だけでなく、地場企業がこぞって発展していくことが重要です。それに、共同で対応することができれば、一社では手に余る案件も安心して受注することができます。そうしたらマーケットはいくらでも広げられるじゃないですか。もう昔みたいに限られたパイを奪い合う時代ではないのです」

取材・文 山口雅之
写真提供 株式会社西村プレシジョン


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本記事は、月刊『理念と経営』2021年4月号「特集」から抜粋したものです。

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