『理念と経営』WEB記事

新築神話から抜け出し、 日本の暮らしを変える

リノベる株式会社 代表取締役 山下智弘 氏

テクノロジーを活用したリノベーション・プラットフォーム事業を展開し、創業以来、“暮らしにあわせた家づくり”を模索してきた山下智弘社長が描く、これからの住まいの在り方――。

日本人が持っていた
価値観を取り戻す

 リノべるの代表を務める山下智弘さんが、同社を起業したのは2010(平成22)年のことだ。中古住宅のワンストップリノベーションサービス「リノベる。」をスタート、住宅選びから住宅ローン、設計、施工、インテリアまでサポートする。テクノロジーを活用して構築するリノベーションのプラットフォームが強みだ。
 同社は現在、年間73億円を売り上げるが、起業した当時の日本ではまだ「リノベーション」という考え方そのものが浸透していなかったという。
 「当時、リノベーションの融資を受けようとすると、銀行の担当者からこう言われたことがあります」と山下さんは話す。
 「内装に金箔でも使っているんですか?」
銀行の「リフォームローン」の相場は約100万円。顧客のニーズに合わせて建物内を刷新し、つくり直すリノベーションでは1000万円台の費用がかかる。担当者には「リフォーム」と「リノベーション」の区別がついていなかったわけだ。
 「そもそも日本には『新築神話』とも言える家に対する価値観があります。だから、『リノべる』の構想を話すと、『君のやろうとしている事業は、日本人のDNAを変えるようなもの。100年はかかるよ』とも言われたものです」
 しかし――と彼は続ける。日本の住宅を巡る歴史を調べてみると、家屋を引っ越す「移築」の技術があったように、日本人は一方で家を大切に使う生き方をしてきた。
 「みんなが同じような家に住み、一生に一度の買い物として家を買うといった新築神話は、戦争で焼け野原になった都市に大量の住宅を建てた戦後につくられたものにすぎないんです。その意味で僕が目指しているのは、もともと日本人が持っていた家に対する自由な価値観を、いまの時代に取り戻そうとすることなのだと思っています」

ラグビーでの挫折が
「いまの自分の原点」

 では、なぜ山下さんは「リノべる」の事業を立ち上げようと考えたのだろうか。
1974(昭和49)年、奈良県に生まれた彼は、学生時代をラグビーの選手として過ごした。大学卒業後はある企業の選手となったが、社会人ラグビーのレベルの高さを目の当たりにして、「この世界では自分は通用しない」と痛感したという。そうしてラグビーでのキャリアを断念した「挫折」が、いまの自分の原点にはあると彼は話す。
「若い頃の僕の人生は8割がラグビーでした。ところが、社会人になってその8割が一気に消えたわけです。その後は逃げてばかり。同期の選手が活躍しているのを横目に、『何のために生きているのか』とさえ思う日々でした。そんななかで出会ったのが、先輩の紹介で転職した大手ゼネコンでの新築マンションをつくる仕事でした」
 大きな新築マンションの建築現場では、1000人単位の職人が働く。強面の人も多かったが、「小さな体で大きな相手に向かっていくラグビーを続けてきたので、そうした場所で自分のポジションをつくって戦っていくのが得意だった」と彼は言う。
「ラグビーでの経験が生かせる仕事を得たと実感しました。それに新しいマンションが建つと、お客さんたちが喜んでくれるのも本当にうれしかったんです」

ある老婦人の一言が
人生の転機になった

 興味深いのは、彼が「リノベーション」というテーマに出会ったのもまた、その新築マンションの施工建築の仕事を続けていたときであることだろう。
 ある日、大阪での建て替え工事が終わった際、彼は以前にそこで暮らしていた一人の高齢の女性にこう言われたという。
「ここにはおじいさんとの思い出があった。それをすべてあなたに奪われた――」
 この言葉を聞いたとき、山下さんは次のような思いを抱いたと振り返る。

取材・文 稲泉 連
写真提供 リノベる株式会社



この記事の続きを見たい方
バックナンバーはこちら

本記事は、月刊『理念と経営』2021年3月号「スタートアップ物語 ――次代を創る主役たち」から抜粋したものです。

理念と経営にご興味がある方へ

SNSでシェアする

無料メールマガジン

メールアドレスを登録していただくと、
定期的にメルマガ『理念と経営News』を配信いたします。

お問い合わせ

購読に関するお問い合わせなど、
お気軽にご連絡ください。