『理念と経営』WEB記事

古くも新しい、老舗のたゆまぬ挑戦

株式会社西山酒造場 代表取締役社長 西山周三 氏

俳人の高浜虚子が「ここに美酒あり 名づけて小鼓といふ」と詠んで命名した銘酒「小鼓」。その蔵元である西山酒造場は、日本酒にとどまらず丹波特産の栗や黒豆を使った焼酎、スイーツまで製造している。過去の「当たり前」を次々に撤廃し、新風を送り続ける6代目の目指すものとは?

蔵に戻ってから半年で改革に動き出す

創業は黒船来航の4年前、1849(嘉永2)年。兵庫県丹波市で172年続く西山酒造場に、6代目である西山周三さんが戻ってきたのは2002(平成14)年のことだった。大阪のテレビ局の東京支社で営業マンとして働いて5年が過ぎた頃である。

いつかは戻らなければと思っていた6代目の背中を押したのは、ミシュランの星も取っている寿司店での、ある出来事だった。クライアントと食事をしていたとき、「いい地酒が入った」と出された日本酒が実家の酒だったのだ。西山さんは、〝うちもきちんとしたものを造っているんだな。これは途絶えさせてはいけない〟と思ったと話す。

———戻られたのは30歳前ですか?
西山 28か、29だったと思います。大吟醸ブームや地酒ブームなんかが過ぎて、再び日本酒の需要が下降線を辿っていた頃でした。でも知恵の出し方によっては変えていけるんじゃないか、そこに面白味があると思ったんです。そういう意味では帰り時かなと……。

———蔵の雰囲気はどうでしたか。
西山 とにかく暗かったですね。父親からは「改革すること自体に文句は言わん。ただ、ゆっくりやれ」と言われました。何をやるにしても、まずは現状を知ることだと思って気づいたことなどをノートに書き留めていったんです。半年で20冊くらいになりました。

酒造りと経営が分離している状態というのでしょうか。情報の共有も、社内のコミュニケーションもなくてバラバラでした。確かにいい酒を造っていたのかもしれませんが、蔵人には自分たちが造りたい酒を造って経営者にも口出しさせないような体質がありました。だから営業は営業で勝手にやるという感じで、父は大変だったろうなと思いました。

———一体感がないわけですね。
西山 はい。経営理念もありませんでした。ただ父親自身はどんな蔵にしていきたいかというビジョンは持っていたと思うんです。しかし、それが社員みんなに共有されていない。ここを変えないといけないと思って、ノートを取りながら自分なりの理念やビジョンなどを考えていったんです。

当初は1年間は何も言わないでおこうと思っていたんですが、若さですかね。半年で我慢できなくなって、改革にはスピードも大切や、と。当時は20人くらい社員がいたんですが、ある日、地域の公民館に集まってもらいました。

———ご自分が考える理念やビジョンを打ち出されたわけですか。
西山 そうです。まだ明文化まではできていなかったのですが、自分が思っている酒造りや会社として目指したいことを話しました。一番訴えたのは、徹底的にお客様の声に耳を傾けて、みんなでお客様に喜んでいただける酒造りをしていこうということです。

明るくなければものづくりはできない

———その公民館から改革がスタートしたわけですね。
西山 はい。それをきっかけにこれまで理由もなく「当たり前」になってきたやり方を変えていこうと、現場に入って対話を重ねていきました。会社を守り、伝統を次に繋いでいくには変化を恐れてはいけないと思いました。

一例を挙げると、酒造りでは杜氏が一人でやることが結構あったんです。でも一人でなければいけないという理由はありません。それを複数の人間でやるようにしていきました。そうすることで杜氏の勘や経験に頼っていたものを共有化することができます。

———反発はすごかったのでは?
西山 「そんな酒蔵なんかあるかいっ」「変えたら、俺ら辞める」なんて怒鳴られたり……。対話というより、けんかに近いこともありましたね。でも退くわけにはいきません。僕もガンガン言いました。辞めていった人、辞めてもらった人もいて、いまも残っているのはごく数名です。でも、その人たちが会社を支えてくれています。

———ほとんど総入れ替えですね。
西山 僕は、ものづくりは明るくなければできないと考えているんです。明るい現場だからこそ、いい製品を造ることができる。互いのコミュニケーションも活発になるし、失敗を許せる寛容さも生まれます。新しい視点を入れるという意味でも、会社を明るくするためにも積極的に女性を採用していったのです。

———職場は明るくなりましたか。
西山 日本一明るい蔵だ、という評価もあるほどです(笑)。僕が帰ってきたときは女性は誰もいませんでした。それがいまでは社員50人のうち3分の2が女性です。帰ってきた頃が嘘のように活気があります。女性の蔵人が多くなったことで誰が造っても同じものが造れるように酒造りのデータ化も進めました。

———酒造りの属人化を廃したわけですね。確かネット通販も草分けだったと聞いています。
西山 これも帰ってすぐに取り組みました。まだ妻と交際していたときです。彼女が「ネットで売らないの?」と聞くのです。早速調べてみると、当時ネットで最も売れていたのが水だったんです。ミネラルウォーターですね。確かにスーパーで買っても持って帰るのは重い。酒も液体です。ネット通販はいけると思いました。

取材・文 中之町 新
写真提供 株式会社西山酒造場


洗練されたデザインの代表銘柄「小鼓」。洗練されたフォルムが特徴的だ


この記事の続きを見たい方
バックナンバーはこちら

本記事は、月刊『理念と経営』2021年3月号「企業事例研究1」から抜粋したものです。

理念と経営にご興味がある方へ

SNSでシェアする

無料メールマガジン

メールアドレスを登録していただくだけで、『人が主役の経営』を応援するメルマガを無料で配信いたします。

登録する

お問い合わせ

購読に関するお問い合わせなど、
お気軽にご連絡ください。