『理念と経営』WEB記事

そうか、 すべて自分の責任 だったんだ!

株式会社飯田
代表取締役社長 飯田結太

「かっぱ橋道具街」屈指の人気店となった、料理道具専門店の飯田屋。だが、数年前までは倒産の危機にあった。売り上げ激減、客離れ、高い離職率……。連鎖する逆境を乗り越えるため、6代目社長はまず自分が変わることから改革を始めた――。

 800mほどの商店街に、調理器具や食器などの専門店約170店舗が並ぶ、東京・浅草の「かっぱ橋道具街」。そのなかにある料理道具専門店が「飯田屋」だ。
 創業は1912(大正元)年で、100年を超える歴史を持つ老舗。現在の飯田結太社長は6代目に当たる。
 「マツコの知らない世界」(TBS)や「嵐にしやがれ」(日本テレビ)などの人気テレビ番組で、飯田社長の活躍を目にした人も多いだろう。いまやかっぱ橋屈指の人気店だ。
だが、その飯田屋も、ほんの数年前まで倒産の危機に見舞われていたのである。

「とんでもない後継者だ」
と、客や社員に見放され…

 先代の社長は飯田さんの母親。他の夢をあきらめて経営者になった経緯があったためか、息子には「自由に生きなさい」と言い、後を継がせる気はなかった。飯田さんは大学卒業後、小さなITベンチャーを起業した。だが、その頃から飯田屋の売り上げは急減。外食産業の大不況の影響もありピーク時に3億7000万円あったものが、1億にまで落ち込んだ。
 母一人子一人の母子家庭で育ったこともあり、飯田さんは母の窮地を見過ごせなかった。母を助けたい一心で、2009(平成21)年に飯田屋に入社。25歳のときだ。
 最初に取り組んだのは値下げだった。かっぱ橋の同業店舗の価格をくまなく調べ、街で一番安い店を目指した。社員たちには反対されたが、飯田さんは「売り上げ回復にはこれしかない」と思い込んだ。
 だが、値下げのため低品質な商品に入れ替えたことを、常連のプロたちは即座に見抜いた。値下げしても売り上げは上がらず、得意先の信用は失い、クレームは増えた。社員たちからは、「とんでもない後継者が来た」と呆れられる始末。「あいつに大事な仕事を任せたら、何をやらかすかわからない」と、店番や値付けなどの単純作業しか回してもらえなくなった。
 一人でポツンと店番をしていたとき、飯田さんはある客と運命的に出会う。和食店を経営する客が、「一番ふんわりした食感になるおろし金はどれ?」と聞いてきたのだ。
 いまや250種類ものおろし金を揃えている飯田屋だが、当時はわずか3種類。その3つで実際に大根をおろしてみたところ、客の反応は「三つとも全然駄目!」だった。そして、「急がないから、いいのを探しておいてよ」と言って帰っていった。
「それから、お眼鏡にかなうおろし金を探したんです。取り寄せた10種類くらいのおろし金を実際に使ってみて、驚きました。同じ大根をおろしても、おろし金によって味も食感もまったく変わるんですよ。それに、おろすときに手が疲れないとか、1個1個特徴が違う。目から鱗が落ちました」
 ずば抜けてふんわりした食感になるおろし金を探し当て、くだんの客に連絡をした。5000円の高級品だったが、客は「こういうのが欲しかったんだ」と大喜びで買っていった。
 この経験で、飯田さんは「値下げしなくても、お客様が喜んでくださる商品を提供できれば、こんなに気持ちのいい商取引ができるんだ」という気づきを得た。そして、料理道具の世界の奥深さにも初めて気づいた。それが、経営者としての転機になった。

「料理道具専門店」
への転換を決断した

 「当時の飯田屋は、飲食店用品全般を手広く扱っていました。白衣やのれん、看板、清掃用品など……。料理道具の売り上げは、全体の20%程度だったのです」
 だが、飯田さんは料理道具に特化しようと決心した。それは、料理道具を買いに来た客が求める商品を見つけたときの〝喜び度〟が、他のジャンルより圧倒的に高かったからだ。味に直結する料理道具は、プロたちにとってひときわ大切なのだ。
 それは、売り上げの8割を占めていた他のジャンルを捨てることにほかならない。社員たちからは反対され、取引先からはなじられた。それでも決心は揺るがなかった。
 ある日、社員全員を集め、料理道具専門店に転換したいという思いを熱く訴えた。一人ひとりの話にもじっくり耳を傾けた。意見を述べ合ううち、1つのひらめきが生まれた。それは、かっぱ橋ならではの2つの強み――商品が1個から発注できることと、「夕方5時に発注すれば翌朝8時には品物が届く」こと――を掛け合わせるアイデアだった。各商品の在庫は1個しか持たず、その代わり展示する種類は可能な限り増やす「1個在庫・多品種展示」をしようと考えたのだ。

取材・文 山路正晃
撮影 編集部


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本記事は、月刊『理念と経営』2021年2月号「逆境! その時、経営者は…」から抜粋したものです。

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