『理念と経営』WEB記事

おばちゃんの「おせっかい」が最大の武器に

株式会社東田ドライ 
代表取締役 東田伸哉

オンラインで注文できる宅配クリーニング「リナビス」が好調な東田(とうだ)ドライ。創業60年の実績に裏打ちされた洗濯技術と、ボタン付けやシミ抜きなどを無償で行う〝おせっかい〟なサービスが受け、この5年で売り上げを約10倍に伸ばしている。なぜ、同社は時代のニーズと自社の強みをつなぎ合わせることができているのか。

◆危機感

 東田さんが大学卒業と同時に家業に入ったのは2012(平成24)年。当時、東田ドライは11店舗(現在の直営店は5店舗)を構え、地域の信頼も厚かったため「将来困ることもないだろう」と気楽に過ごしていた。だが、半年ほど経った頃、東田さんはふと〝違和感〟を持った。商売なら当然打つはずのキャンペーンやフェアといった売り上げを上げる施策が一切ない。決算書を見ると、思いもしなかった数字に愕然となる。20年連続で売り上げが下がり続けていたのだ。このまま右肩下がりが続けば、資金が底を突くのは明らかだ。
「それなのに、社内の誰一人として『どうにかしようとしていないこと』に一番危機感を持ちました」

◆お客さんが困るやろ

 現場を見ると、業績がよかった頃と同じだけの人員が働いていた。
「単純に売り上げが入ってくれば同じリソースで生産はできるんだろうな、というイメージはありました」
 そこで取り組んだのが、14(同26)年四月に開始した「リナビス」だった。だが、すでに同業者も多く、ウェブ広告に予算を投じてみたものの「安い・速い」を謳ったリナビスへの注文はさっぱりだった。
 どうすれば独自の特色を打ち出せるだろう。東田さんは再度現場に目を向けた。なぜ五〇年以上続けてこられたのか、お客様は何を求めているのか、そんな思いで現場を回っていると、頼まれてもいないのにボタン付けやシミ抜きなどをしているスタッフの姿が目に入った。長年勤めている〝おばちゃん〟スタッフだ。「それってお金もらってないんやんな」と聞くと、「そう、もらってないけど、お客さんが困るやろ」という答えが返ってきた。
 また、夜九時に「明日始業式なのに学生服を取りに行くのを忘れた」という電話を受け、顧客宅に届けに行く母の姿もあった。
無償の修理も、夜中に届けに行く行為も、「最初は単純に無駄なことしているなと思った」と言う。
 「でも、お客様自身は喜んでいらっしゃった。これが多分、両親がやってきたことなんだな、と思いました。原価も人件費もかかっているので利益を痛めているわけですが、ずっと昔からやっていることだから、当社なりのいいことなのかなと。それを言い換えて〝おせっかい〟にしました」
 自社の強みが見えてきたのである。


この道、数十年のベテランの“おばちゃん”たちが
活躍する


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本記事は、月刊『理念と経営』2021年2月号「わが社の強み」から抜粋したものです。

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