『理念と経営』WEB記事

「空飛ぶクルマ」が世界を変える

株式会社SkyDrive
代表取締役CEO 福澤知浩

クルマで空を飛び回り、あっという間に目的地に――。SF映画では馴染み深いシーンだが、その“夢のモビリティ”が現実のものになりそうだ。2023年の実用化を目指し、開発を進めるスタートアップ「SkyDrive」。陣頭指揮を執る福澤知浩CEOが描く未来のモビリティ社会を聞いた。

「ようやくここまで来たか……」

  2020(令和2)年11月4日――。
 東京ビッグサイトの展示場で、「空飛ぶクルマ」をテーマにした国内初の技術展示会「フライングカーテクノロジー」が開催された。会場ではさまざまな企業や団体が製品や技術を出展していたが、その中でとりわけ多くの人を集める一角があった。福澤知浩さん率いる「SkyDrive」社のブースだ。
 来場者が注目していたのは、同社の開発している試作機「SD-03」。電動での垂直離発着が可能な「eVTOL」で、白と濃い青のカラーリングにLEDのヘッドライトが映[は]える。8つのプロペラを備えた一人乗りの機体だ。現在のバッテリーでの飛行時間は10分ほどだが、まずは二人乗りで時速100km、20分以上の航続時間を目標に開発を続けている。
 「空飛ぶクルマを僕らが作りたいのは、それが本当に夢のあるモビリティだからです」と福澤さんは言う。
 「例えば、『スターウォーズ』や『バック・トゥ・ザ・フューチャー』などのSF映画。そこではさまざまな未来の技術が描かれてきたけれど、その中で開発をいくら続けても実現してこなかったのが空飛ぶクルマなんです」
 現在、世界では約200社が「空飛ぶクルマ」の開発を進めていると言う。だが、有人によるテスト飛行を成功させているのは10社ほど。SkyDrive社はそのうちの一つなのだ。
 同社が試作機のデモフライトを報道陣の前で初めて行ったのは、ビッグサイトでのこのイベントから遡ること3カ月前、20年8月25日のことだった。
 場所は同社が豊田市から借りている郊外の試験場。テストパイロットが乗り込んだSD-03のプロペラがモーター音とともに回転すると、しばらくして機体がふわりと浮き上がり、水平の状態を保ったまま高さ2mほどの位置を飛行した。
 その様子を見ていた福澤さんは、「ようやくここまで来たか……」という感慨を覚えたと振り返る。
「東京オリンピックのあるはずだった2020年の夏、そのタイミングでのデモフライトの実現は、僕たちの一つの目標だったからです。いくつもの技術的なハードルを乗り越えてきただけに、大きな感慨がありました」
 何より彼に手ごたえを感じさせたのは、初めて同社の機体を見た周囲の反応だった。新型コロナウイルスの流行で、試験場に集められたのはメディア関係者のみだったが、その彼らからは「おお」というどよめきが上がった。また、配信したYouTubeの動画は後に公式だけで約200万回再生され、報道と相まって海外からの反応も大きかった。「クールジャパンのモビリティに乗ってみたい」といったコメントも多数あり、彼はそうした反響に「まずはスタートラインに立った」と開発へのモチベーションを新たにした。

有志らと議論を重ねた
「モビリティの在り方」

  福澤さんがこの「空飛ぶクルマ」のプロジェクトを始めたのは14(平成26)年。当時、彼はトヨタ自動車の2年目の社員だった。だが、大企業の細分化された仕事の中では、若手社員に「ものづくり」の全体に携われる機会は少ない。そこで愛知県の自動車系エンジニアの有志に声をかけ、「新しいモビリティ」を作るプロジェクトを2年前に立ち上げていた。
 「最初は休みの日に誰かの自宅に集まって、『こんなものを作りたい』と議論をする趣味のようなものでした」と福澤さんは回想する。有志団体は「カーティベーター」と名付けられ、以後、彼はその中心メンバーとして活動していくことになった。

取材・文 稲泉 連
撮影   富本真之


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本記事は、月刊『理念と経営』2021年1月号「スタートアップ物語 ―次代を創る主役たち」から抜粋したものです。

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