『理念と経営』WEB記事

あなたは10年、20年、必死で経営できますか

株式会社シナ・コーポレーション代表取締役 遠藤 功
株式会社大創産業創業者 矢野博丈

大創産業は現在、100円ショップ「ダイソー」を、国内に3493店舗、海外にも26の国と地域に2248店舗を構えている。「これが100円⁉」という品質の高さと品ぞろえの豊富さで、顧客の心を惹ひきつけている。転職を繰り返し移動販売から“100均の雄” の地位をつかんだ矢野創業者の「儲けよりも売れること」を重視した経営観とは―。

私にはいつも、お客様から
飽きられる怖さがある

矢野 うちの100円ショップは宝物探しです。これは昆虫のおもちゃですよ。

遠藤 コオロギですか。動くんですね。こんな物まであるとは驚きです。もう日用雑貨品だけじゃないんですね。

矢野 売り場には1万アイテムくらいしか出ていませんが、全アイテム数は7万6000点あります。そのうちの90%が自社開発商品です。
 何しろ、国内外に5000店舗以上を展開していますから、メーカーからすれば、各店で1日5個売れる商品をダイソーに持ち込めば、毎日2万5000個売れる計算になります。年間を通せば900万個です。だから、どのメーカーも何とか工夫して原価を抑えて持ってきます。利益が仮に1円でも、1年間で900万円、2円なら1800万円になるからです。

遠藤 そこはダイソーならではの強みですね。

矢野 ただし、100円ですから、同じ商品ばかりでは飽きられます。そのスピードも速いので、新商品を作らざるを得ない。
 1999(平成11)年の12月に、セブン-イレブンの鈴木敏文さん(現セブン&アイ・ホールディングス名誉顧問。当時はイトーヨーカ堂社長)とお会いしたときに、「二一世紀を生きるキーワードは何でしょうか」と聞いたことがあります。すると鈴木さんは、「うーん、そうだな。新しさだな」とおっしゃったんです。それを私は「新商品開発」と捉えました。

遠藤 「新しさ」ですか。

矢野 はい。要するに、アイテム点数を増やして在庫を抱え、当時の小売業の王道である「在庫は悪」の逆をしたんです。売る自信があれば、「在庫は宝」になるんです。結果オーライでした。

遠藤 そういう意味では、業界の常識を“否定”してきて、ダイソーの今の発展があるんですね。私は製造業の出身で、トヨタともお付き合いがあるのですが、トヨタのすごさは、「これでいいのか」「これでいいのか」と、現状に絶対満足しない自己否定力です。ダイソーが常に「新しさを求める」のは「革新性」の追求ですね。

矢野 「飽きられる怖さ」です。ほとんどの商品が100円なので、お客様はその日に欲しいだけ買って帰られます。だから次に来られたとき、新しい物がなければ帰ってしまいます。つぶれる怖さからくる発想ですね。

遠藤 矢野さんは「倒産しないことが第一目標だ」とおっしゃっていましたね。

矢野 実際に、私は最近まで、本気で「もっといい物を作らないと、会社はすぐにつぶれる」と思っていました。必ず行き詰まると……。

遠藤 世の中には「楽して儲ける」という風潮がありますね。矢野さんはなぜ、一見、利幅の少ない「100円ショップ」を立ち上げられたのですか。

矢野 私は中央大学の夜間部を卒業してから鳴かず飛ばずで、転職を繰り返しましたが、転機になったのはトラックの移動販売です。72(昭和47)年のことです。大阪にある日用雑貨の露店専門問屋で、2tトラックが満杯になるほど雑貨を買い込み、各地を売って回るのです。移動販売ですから、売り場は毎日変わります。現場に着くと商品を並べ、値札をつけて開店準備をします。
 ある日のこと、いつものように開店準備をしていると、お客様が次々にやって来て、「これなんぼ?」「これは?」と聞くんです。手が回らなくて、「全部100円でいいや!」と言ってしまったことが100円ショップ誕生の瞬間です。

遠藤 ということは、偶然なんですね。

矢野 はい。でも、儲けよう儲けようと思っている頃は儲かりませんでしたね。「つぶれなければいいんじゃ。儲けようと思うな。売れりゃええんじゃ。食えればええんよ」と考えるようになってから、道が拓ひらけました。

遠藤 お客さんから「安物買いの銭失い」と言われたこともあったそうですね。

矢野 そのときはショックでした。どうせこんな安物すぐ壊れちゃうから買うだけもったいないと。100円で100円の価値の物しか買えなかったら、お客様は興味を持ちません。「100円でこれだけの物が買えるのか」と思ってもらえなければ駄目なんです。そこで、どうせ儲からないのなら、利益度外視で、とことん良い物を売ってやると決めたんです。今思えば、100円という縛りがあったのがよかった。その中で商品や流通コストを抑えることに集中できたわけですから。

遠藤 制約があるからこそ、現場は知恵を絞り、創意工夫できるんです。しかし、小売りの場合、成功すると大手量販店が参入してきてシェアを奪っていきます。なぜダイソーはここまで大きくなれたとお考えですか。

矢野 1つの商品に対して、仕入れの数を100万個という単位にしたんです。そこまでの規模なら作れるメーカーも限られますし、他社の発注を受けることもできません。いい商品を大量に確保することが、そのまま強みになるんです。
 ダイソーは国内外の店舗数拡大とともに取り扱う商品の規模が大きくなり、競合他社はこの規模に追い付けなかったわけです。

遠藤 なるほど。そうして、着々と規模の優位性をつくっていったわけですね。

矢野 はい。そのうち常設店の誘いも来るようになり、徐々に移動販売型から常設店舗型に切り替わっていきました。91(平成3)年には香川県高松市に最初の直営店を出し、そこからチェーン展開が始まり、月に50~60の出店が続きます。しかし、内心、店を増やすのは怖くて仕方がありませんでしたね。

「恵まれる不幸せ」と
「恵まれない幸せ」

遠藤 矢野さんは「恵まれる不幸せ、恵まれない幸せ」ともおっしゃっています。

矢野 家が貧しかったので、大学は夜間に行き、昼間は八百屋で働いて、学費や生活費はすべて自分で賄いました。まさに、そういう貧しさがあったからこそ、お金の大切さに早くから気づくことができたんです。
 これは「恵まれない幸せ」です。人は恵まれた瞬間に力が落ちていきます。常に自分は運も能力もない人間だと思っていたほうが頑張れる。実際これまでの私がそうでしたから。

遠藤 〝たくましさ〟ですね。

矢野 いやいや、〝弱々しさ〟ですよ。私は毎日、お客様から飽きられるのを恐れて「ダイソーはつぶれる、つぶれる」と呟いていたのですから。

遠藤 私は今まで、経営者から「うちの会社はつぶれるぞ」と聞いたのは、トヨタとダイソーしかありません。世界一になったトヨタでも「うちはいつつぶれてもおかしくない」と言い続けていました。
 それは、「変わっていかなきゃいけないんだ」という必死さの表れではないでしょうか。本当にたくましさを感じます。
 ところで、今、新型コロナウイルスの問題で世界中が混乱の極みにありますが、客観的にはどうご覧になっていますか。

矢野 逆に、海外のように閉鎖させられないだけいいんじゃないですか。あってもなくてもいいものは本来、閉鎖させられてもおかしくありません。

遠藤 新型コロナが起きて大変なこともありますが、さまざまなものが止まったことによって見えてきたものもありますね。私はこの新型コロナという“目に見えない黒船”は、この国を再生させる大きなきっかけになり得ると思っているんです。私たちはコロナ・ショックをコロナ・チャンスに変えなければいけません。
 つまり、“コロナ後”に確実に起こる変化を先取りし、先手を打たなければ、私たちはコロナの大渦に飲み込まれ、経済は大きく縮みます。それぞれの会社はまず、「縮んだ経済」に合わせて身を縮めるしかない。生き残るためには、痛みを伴う施策を断行せざるを得ない会社も出てくるでしょう。しかし、コロナ・ショックは日本にとって、必ずしもマイナスばかりではないと、私は考えています。
 むしろ、平成の「失われた30年」という緩慢なる衰退から脱却し、力強い再生へとシフトする千載一遇のチャンスではないかと思うのです。

矢野 私も、そのチャンスは十分にあると思っています。

撮影 中村ノブオ


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本記事は、月刊『理念と経営』2021年1月号「巻頭対談」から抜粋したものです。

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