『理念と経営』WEB記事

大志を持って正道を歩めば、道は開ける

ワキ製薬株式会社代表取締役社長 脇本真之介

ミミズの〝皮〟を乾燥させた「地竜(じりゅう)」は、漢方の生薬として古くから熱冷ましに使われている。1882(明治15)年創業の老舗の置き薬メーカー・ワキ製薬では創業時から地竜を使った風邪薬を製造してきた。

3代目である祖父の佳信さんが、いつも捨てているミミズの〝内臓〟にも何か薬効があるかもしれないと思い、九州の医科大学と共同で研究してタンパク質を分解する酵素を発見した。その酵素は脳梗塞や心筋梗塞の予防に役立つことがわかり、研究を続ける中で血糖値を改善する働きのある低分子化合物なども含まれていることもわかってきたという。さらにそれを商品化する「真空冷凍ミミズ乾燥粉末」の技術を父の吉清さんの代で確立し、特許を取得した。

「だけど、やっぱりミミズのサプリメントは気持ち悪いという印象があって敬遠されるんでしょうか。当時はまったく売れませんでした」

5代目社長の脇本真之介さんは、そう言う。それまでリゾート関連企業に従事しトップセールスマンだった脇本さんが入社したのは2000(平成12)年。24歳のときだった。前年に亡くなった祖父が何度も口にした「薬は人を笑顔にできる素晴らしい仕事やで」という言葉が背中を押した。

「祖父が伝えたかったことって何だったんだろう。それを知りたいと思い、家に戻ってきたのです」

入社してすぐのことだ。修業のために置き薬の営業で福岡県の田川市を回っていたとき、あるお年寄りから「あんたとこの薬で健康にしてもらい、いつも助かっている」と、茶菓子をいっぱい出しくれた。帰りは車まで送ってくれたのだ。同じ営業職にいたが、こんなことは初めてだった。そのとき人の健康に貢献する仕事の意味と意義を実感した、と言う。

半年後に売り上げの8割がなくなる!?

脇本さんが入社したときのワキ製薬は、社員六人の会社だった。売り上げは2億円。だが利益は数十万ほどしかなかった。脇本さんはミミズのサプリを自分が新規に売ってくると、全国を走り回った。

ミミズの先入観を変えるために、その知られざる生態を多くの販売会社で話していった。ミミズは生活の場とトイレの層を上下2層に分けているほど清潔だということ、過密になることを嫌うし、床の温度が29度を越えると死ぬことなど。そんな話をすると興味が湧くのか、サプリを取り扱ってくれる会社が少しずつ増えていった。

やがて社員も25人になり、売り上げも13億円を越えるほどになった。そんなころ、粉末化の特許が切れた。08(同20)年のことだ。

「競合他社が出てきて、市場が分散していき、価格競争が起こりました。当社は、父が出資してミミズの原料製造の会社を設立していましたが、その会社がつくった原料を全部買い取る契約をしていたので、お金がどんどん減っていったのです」

月末になると父が「お金がない。会社、もうあかん」と悲壮な声を上げながら資金繰りに駆け回っていた。脇本さんも貯金を崩して会社に入れた。


取材・文 中之町新
写真提供 ワキ製薬株式会社


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本記事は、月刊『理念と経営』2020年12月号「逆境!その時、経営者は…」から抜粋したものです。

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