『理念と経営』WEB記事

「企業は消費者のためにある」 という原点に立ち返る

ジャパネットたかた創業者 髙田明

価値は、伝えてこそ価値となる

   ニューノーマルは、2008(平成20)年のリーマン・ショックのときにアメリカの投資家らの間で流行した概念ですが、今回のコロナ禍が世界に与えた影響はその時の比ではありません。経済だけにとどまらず、人間の生き方や価値観にまで大きな変化を与えています。利益優先、経済効率一辺倒で進んできた人類に対して、今一度立ち止まり進むべき道を再考するよう、促しているように私には感じられるのです。
日本では新総理が誕生し、「自助・共助・公助」の国づくりを訴えられました。「責任逃れではないか」との批判もありましたが、私はむしろ大事にすべき考えだと思います。この困難のなか、まずは自分自身が必死になって自らを助け、そこに共助と公助が加わって初めて、コロナ禍を乗り越えていけると思うのです。
自助のために大切なことは、何か。私は、「今を生きる」ことだと思っています。こういう困難な状況のなかでは、どうしても不安になり未来ばかりが気になって、負のスパイラルに入っていきがちです。自分の力だけではどうにもならないことを嘆いても未来は開けません。今の状況を受け止め、今、自分は何ができるのか考え、今できることに集中する、その瞬間瞬間の積み重ねのなかで、必ず未来は開けていくものです。
昔はいくらか先が読めましたが、今は明日がどうなるか分からない時代です。何が売れるか未来予測する事は非常に大切ですが、今、自分たちで売れる商品やサービスをつくり出すことが肝心です。そのためには、原点に立ち返って自社の持つ価値が何なのか精査して、そこにアイデアを加えて新しい価値を生み出すのです。
私は、社長を退任したあと某テレビ番組の取材で、各地で奮闘する生産者のもとを訪ね歩きました。福井県鯖江市の眼鏡フレーム、今治市のタオル、岡山県倉敷市のデニム等々、皆さん、磨けば光るものをたくさん持っていて、素晴らしい商品をつくり出しておられました。
そこで等しく問題となっていたのが、その価値を消費者にどう伝えるかということでした。商品やサービスがどれだけ素晴らしくても、それが消費者に伝わらなければ売れません。伝えたのに売れないのは、伝えたつもりになっているだけで、伝わっていないから。
私も長年、「ジャパネットたかた」でたくさんの商品を売ってきましたが、紹介しても売れなかったものは、結局、自分が伝えたと思っているだけで、伝わっていなかったのです。
逆に、その価値が伝わった瞬間には、電話が殺到するという経験が何度もありました。
例えば、ICレコーダーは、一般的には会議などでしか使用されませんが、親子のコミュニケーションに使うこともできます。留守がちのご家庭で、お母さんと子どもが双方向でメッセージを伝えることのできる優れたツールとなります。物忘れが気になる高齢者の場合には、ちょっとしたメモとしても便利です。そうした提案やアイデアを伝えることで、爆発的に売れました。
決められた用途だけではなく、誰も気づいていないニーズを見つけ出し、それまでなかった提案をすることで、その商品の新しい価値が生まれます。そしてそれを伝えることができれば、必ず売れます。

今に集中して苦境を乗り越える

   ジャパネットたかたも過去、苦境のなかで「今」に集中して困難を乗り越え、大きく飛躍したことがありました。
ワープロからパソコンに切り替わった時期、商品サイクルが大幅に短くなりました。通常の電化製品は8カ月ほどですが、パソコンは3、4カ月のサイクルで回るのです。このスピードについていくためには、自社でスタジオを持つしかありません。しかし、専門スタッフはゼロ。社内外からは「無理」との声も上がりましたが、わずかな可能性にかけて断行。今では100人の自社スタッフがいます。
また、ブラウン管テレビから液晶テレビへの買い替えが進んだ10(同22)年は、売り上げが1759億円、利益は136億円まで急激に伸びました。しかし、その反動もまた予想以上の大きさでした。11年と12年の2年間で売り上げは600億円も下落。倒産するほどの落ち込みでした。
その時、私は覚悟を決め、「13(同25)年、下落前の利益である136億を上回らなければ、社長を辞める」と宣言をしたのです。私のその強い決意と覚悟を社員みんなが共有し、現社長である息子を中心に一丸となって復活に向けて突っ走ってくれたのです。結果としては、目標を上回る154億円の利益を出すことができました。
テレビの需要が復活したわけではありません。「ジャパネットで扱う商品は他にもたくさんあるはずだ」と、新商品の発掘とそれを伝えることに、みんなが必死に取り組んでくれたおかげです。
目標はクリアしたので、私が社長を辞める必要はなかったのですが、息子を中心に団結して進む姿を見て、「これなら、私がいなくてもやっていける」と判断し、社長の座を譲渡したのです。今では、それでよかったと思っています。売り上げは退任後も伸び、一昨年には2000億円を超えました。
いずれの困難も、今できること、今なすべきことに懸命に取り組んだおかげで、乗り越えることができたと思っています。

構成 長野 修
撮影 中村ノブオ


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本記事は、月刊『理念と経営』2020年11月号「巻頭特別企画」から抜粋したものです。

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