『理念と経営』WEB記事

決断の哲学

成功を左右する決め手は関わる人の本気の度合いだ

株式会社ボーダレス・ジャパン代表取締役社長 田口一成

利益が出なければ続かないというビジネスの基本は、ソーシャルビジネスにおいても同じことだ。

商品自体が市場で評価されることが大事

   ボーダレス・ジャパンは社会課題を解決する事業しか行わない。そう聞くと、思いや理想の追求が先行して、儲けは二の次の浮世離れした会社なのではないかと、いぶかる人も少なくないだろう。ところがだ、同社は2007(平成19)年の設立以来、右肩上がりで成長を続けており、昨年度は世界13カ国で約54億円を売り上げているのである。ソーシャルビジネスだから儲けなくてもいいわけではなく、儲からないという理由もないと、創業社長の田口一成氏は当たり前のように言う。
  「利益が出なければ継続できないのはどのビジネスでも一緒です。だから、当社では、あらかじめ15%の売上利益が確保できるようモデルを設計しています。それには『いいことをしているのだから応援してください』という姿勢ではなく『あなたたちの考え方だけでなく商品も素晴らしい』と思ってもらえないと駄目なのです」
  例えば、ボーダレス・ジャパンがミャンマーで栽培したオーガニックハーブを加工して、妊婦や授乳中の母親向けに販売しているカフェインレスハーブティーは、年間10億円近くを売り上げており、楽天市場のハーブティー部門でも常に上位にランクされている。商品そのものが市場で評価されているからにほかならない。
  「要するに、ビジネスの成功を左右するのは、関わる人の本気度なのです。ソーシャルビジネスは、事業の目的である社会問題で困っている人の顔が直接見える分、余計にがんばろうという気持ちになれるので、むしろ有利だとすら言えます」
  裏を返せば、創業13年目で年間54億円の売り上げというのは、田口社長がこの間どれほど本気でこのビジネスに取り組んできたかの証明だとも言える。
  ただし、利益の拡大は、ボーダレス・ジャパンの主たる目的ではない。
「ソーシャルビジネスが目指すのは、あくまで社会課題の解決。なので事業を立ち上げる際は、必ずそれを測るソーシャルインパクトという指標を設定し、損益計算書やキャッシュフロー表とともに月次で確認します。いくら売り上げや利益が順調でもソーシャルインパクトが伸びていなければ、その事業はやる意味はないというのが私たちの考え方です」

全国至る所に起業家がいて初めて社会は変わる

   ボーダレス・ジャパンはこれまで37のソーシャルビジネスを立ち上げてきた。それらが集まってボーダレスグループを形成しているのである。
「ソーシャルビジネスが1つ増えれば、この社会の抱える問題が1つ減ります。社会起業家を育成しソーシャルビジネスの数を増やすのが、私の役割であり使命なのです」
  社会をもっとよくしたいと考える人は、まだまだたくさんいるに違いない。しかし、思いを事業にしてなおかつ黒字化できる人材となると、必然的にその数は限られてくる。そこで、田口社長は起業のハードルを思い切り下げた。それが、“恩送り”というシステムだ。
「社会をよくしたいという強い気持ちがあるとグループ全社の社長が認めた人には、私たちのもつ起業のノウハウや人材、それから初期費用の1500万円、これらをすべて無償で提供します。それでも失敗した場合は再度1500万円を提供し、グループ全体で徹底的にサポートして再起を促すので、最終的にはほとんどの人が成功します」
  ちなみに、提供する資金の原資は、グループ会社が自社の余剰利益から捻出している。先輩たちが必死の思いで稼いだお金や経験値は重く、尊い。それ故それらを受け取って成功した人は、今度は次の起業家のために同じことを喜んでやるようになる。これが恩送りだ。
「最初から優秀な起業家ばかりを集めインパクトのあることだけをやっても、何も変わりません。全国至る所に起業家がいて、切磋琢磨しながらソーシャルビジネスに汗を流している。そうなって初めてこの社会は変わるのです」
  そんな田口社長が自ら危機感をもって取り組んでいる社会課題が地球温暖化だ。
「この4月から、100%自然エネルギー由来の電力を供給する『ハチドリ電力』をスタートしました。発電時に二酸化炭素を出さない電気に変えるだけで、地球温暖化を食い止める活動に貢献できるのです。ぜひ参加してみませんか」

取材・文 山口雅之
写真提供 株式会社ボーダレス・ジャパン


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本記事は、月刊『理念と経営』2020年10月号「特集」から抜粋したものです。

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