『理念と経営』WEB記事

志×テクノロジーが未来をつくる

「町工場が底力を発揮する仕組み」を先端技術で構築

キャディ株式会社 代表取締役 加藤 勇志郎

日本のモノづくりを支える町工場の世界にイノベーションを―。そんな志から、2人の青年が起業したキャディ。製造業のハブ(中心軸)の役割を果たすプラットフォームにより、モノづくりに静かな革命を起こしつつある。

7秒で最適マッチング

キャディは、製造業のメーカーと町工場をマッチングする受発注プラットフォーム「CADDi」を運営する会社だ。発注側企業が欲しい部品の3D設計図をCADDiにアップロードすれば、自動解析で即座に見積もりがなされ、全国600社ほどの「パートナー工場」の中から最適な町工場が選び出される。所要時間はわずか七秒ほどだという。

この画期的プラットフォームをつくり出したのが、キャディの加藤勇志郎社長と、共同創業者の小橋昭文CTO(最高技術責任者)だ。

加藤さんは東大卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーでコンサルタントとして働いていた。小橋さんは、米スタンフォード大大学院を出てアップル本社のエンジニアをしていた。絵に描いたようなエリート2人が20代で起業する際、泥臭い町工場の世界を選んだのはなぜか?

「私はマッキンゼーで、製造業の調達コンサルタントをしていました。グローバルに働いていたからこそわかるのですが、日本の製造業は世界的にもレベルが高いのです。しかも、そのことは日本人が思っている以上に、世界中に知れ渡っています」

高い価値を秘めた日本の製造業だが、その土台を支える町工場は、いまや約73%が赤字経営で、しかも売り上げの過半を1社依存している。モノづくりの多品種少量化が進むなどの変化によって、1980年代まではうまくいったやり方が、もう通用しなくなったためだ。

見過ごされていた無駄

「でも、日本の町工場の技術力がなくなったわけではありません。力が発揮しにくい環境になっているだけ。だからこそ、町工場がそれぞれの強みを発揮しやすい仕組みをつくりたかったのです」

キャディがミッションとして掲げる「モノづくり産業のポテンシャルを解放する」とは、そのような意味なのだ。

「本来のポテンシャル(潜在力)と、現実に発揮できている力のギャップが、日本の企業で最も大きいのが町工場です。だからこそ、ギャップを埋めることで生まれる価値も大きい。その積み重ねで、日本の製造業全体の価値を高めていきたいのです」

日本の製造業の総生産額は約180兆円に上る。そして、設計・調達・生産・販売という製造業のプロセスのうち、調達が占めるコストは約120兆円と、最も大きい。にもかかわらず、製造業で最も遅れているのは調達部門で、過去100年間、これといったイノベーションが起きなかったという。

「多品種少量生産の調達はカスタムメイドが基本です。欲しいと思う部品が売っていないので、設計して作るしかない。でも、1人の担当者が発注する部品点数が膨大なので、いちいち最適な町工場を選んでいる余裕はなく、つきあいのある工場に丸投げするしかない。そこから大きな無駄が生じているのです」

CADDiは、膨大な部品の見積もりにかかる重い負担をなくし、最適な町工場をマッチングすることで無駄をなくす仕組みだ。それはいわば「100年ぶりの調達イノベーション」なのである。


取材・文 前原政之
写真提供 キャディ株式会社


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本記事は、月刊『理念と経営』2020年10月号「小特集」から抜粋したものです。

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