『理念と経営』WEB記事

DtoCへの新たな挑戦で、 危機を好機に変えてしまう 技術者集団の心意気

株式会社STG
(非鉄金属製造、大阪府八尾市、従業員数340名)

いまなお猛威を振るう新型コロナウイルス。といって、手をこまねいてばかりはいられない感染抑制と経済活動をいかに両立させるか生き残りをかけ、矢継ぎ早に手を打っていく各社の創意と工夫、試行錯誤を検証する

非鉄金属分野へ進出し、価格競争から抜け出す

 マグネシウム合金は実用金属のなかで最も軽く、比強度(単位重量当たりの引っ張り強さ)が最大の合成金属。自動車部品や一眼レフカメラといったさまざまな製品の軽量化に欠かせない素材だ。一方で、発火しやすいため火災や爆発などのリスクも高く、扱える企業は限られている。STGもそのうちの一社だ。マグネシウム合金の製品企画から量産まで対応でき、その技術力は日本のみならず海外でも高く評価されている。だが、2006(平成18)年から社長を務める佐藤輝明氏によれば、ここまで来る道のりは決して平たんではなかったという。
「私がサラリーマンを辞めて入社した90年代半ばはまだ、当社はアルミニウム製品の表面加工などを細々とやっている町工場に過ぎませんでした。しかも、海外企業との価格競争が激化し財務状態は最悪。そこで、窮余の策としてマグネシウム合金に進出したのです。それでもしばらくは、しばしば起こる爆発事故に手を焼きました」
 転機は02(同14)年。先代である佐藤氏の父が集塵機の開発に成功したのである。これによって安全な作業環境が担保されると、受注量を大幅に増やすことが可能になった。09(同21)年になると、それまでの二次加工から一次加工も一貫して手掛けられる体制が整い、業務は一気に拡大する。さらに、積極的な海外展開も功を奏して業績は右肩上がりが続く。

接触防止携帯フック
着想は「CNNのニュース」

 19(令和元)年にはTOKYO PRO Marketに上場も果たし、念願のアジアナンバーワンも視野に入ったかに見えた矢先に起こったのが、今年の新型コロナウイルスの流行だ。これによって海外の工場も含め、とくに4月は大きく売り上げを落としたという。だが、佐藤氏は意外なほど落ち着いていた。
「大地震、戦争、クーデター、異常気象……この世界は何が起こるかわかりません。だから、経営者なら、常に最悪の事態を想定しておくのは当然のことです。今回も、いま何をやるべきかは、すでにある程度見えています。それに、昨年上場して2億5000万円調達しているので、財政的にも余裕がある。そういう意味ではリーマン・ショックのときよりも楽かもしれません」
 会社が突然の危機に瀕しても、佐藤氏のような泰然自若としたトップなら、社員としてはこれほど心強いことはないだろう。
 そして、佐藤氏は危機をただ乗り越えるだけでなく、好機に変えようとしている。それが、自社開発商品である接触防止携帯フック「HAND HOOK(ハンドフック)」の製造販売だ。
「CNNを見ていたら、ウイルスの感染を防ぐため、ドアノブやつり革に引っかけて使うフックがニューヨークではやっているというニュースが流れていました。その瞬間、日本にもこういう商品を必要としている人がたくさんいるに違いない、だったら、自分たちがもっとカッコいいものをつくって提供しようと思ったのです」
 けれども、STGではこれまで一般消費者向けの商品など手掛けたことがない。半信半疑の社員のなかから佐藤氏は入社1年目と3年目の社員に声をかけ開発チームが動き出す。1カ月後、商品は完成した。

取材・文  山口雅之

本記事は、月刊『理念と経営』2020年10月号「それでも負けない! 中小企業の底力」から抜粋したものです。

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