『理念と経営』WEB記事

社内コミュニケーション

三つの効果を生むリバースメンター制度

株式会社資生堂 グローバルICT部 越智佑子

資生堂が導入しているメンター制度は想像以上の効果があり、全社的に広がっていった。IT活用向上、若手育成、組織・世代を超えたコミュニケーションの活性化。三つの効果を生み出した「リバースメンター制度」とは。

若手社員が役員のIT活用を支援

  大手化粧品メーカーの資生堂に、2017年から本格導入された「リバースメンター制度」がある。従来のメンター制度では年上の社員が年下の社員を指導するが、リバースメンター制度はその関係を逆転させたものだ。
グローバルICT部の越智佑子さんは言う。
「若手社員にとって部長以上の役職者は時に遠い存在です。また、エグゼクティブクラスの社員の中には、若い人との接点が『自分の娘と話すくらい』という人もいる。そうした双そう方ほうのコミュニケーションを、オープンでフラットな形で促進するのが目的でした」
 最初は20名ほどの役員が自ら手を挙げ、若手社員にIT活用支援を受けるというものだった。だが、導入から三年がたった現在、同制度は部長級以上の約200名の役職者が必ず受けるプログラムに育っている。
 同制度では半年に一度、さまざまな部署からメンターになる社員が部門長クラス以上の推薦で選ばれ、以後、3~6回のミーティングを1年間にわたって行っていく。最初にお互いの好きなものを「My 偏愛 MAP」で共有した後は、社内外のSNSツールの活用から他社事例の研究、事業所の課題に関することまで、さまざまなテーマを設定してディスカッションが続けられる。その中で、具体的な業務の改善やイノベーションにつながるコミュニケーションが生まれることも多い。
 制度が拡大展開されたのは、当初の想像以上の効果を当事者たちが感じてきたからだった、と越智さんは語る。例えば、セルフ事業の部門長はメンターとの対話の中で、全国に散らばる200名の営業スタッフとSkype for Businessでの会議を始めた。その他、社内SNSやモバイルの活用が、この制度によって進められた事例が多い。
 さらにはITの活用だけではなく、メンターの発案で工場の視察を行い、生産現場との課題共有のきっかけをつくった事例もある。その際は生産管理の部署に勤務するメンターが、世界八八の国と地域で展開する同社のブランド「SHISEIDO」の役員とコンビを組んでいたという。
「役員とメンターが生産の現場に行き、ブランドの想おもいをプレゼンテーションしたんです。ブランドのパッションを役員自らが伝え、工場側もそれを生産する上での課題を役員に伝えました。その後もSNSでのコミュニケーションを続けるなど、リバースメンター制度をきっかけに普段は接点の少ない両者に接点が生まれたんです」
 また、リバースメンター制度の一つの効果は、若手社員が、経営層の視点や考えに触れる機会になっていることでもあるだろう。
「経営層がなぜその意思決定を下したのか。役員の中には、そうした話を積極的にしてくれる人もいます。若手社員からは『事業に対する理解が深まった』『視野が広がった』という感想が多く、人材育成の観点からも効果が生まれています」

取材・文 稲泉 連
撮影 編集部

本記事は、月刊『理念と経営』2020年9月号「小特集」から抜粋したものです。

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