『理念と経営』WEB記事
特集
2020年9月号
攻めの経営 挑戦し続ける企業

成功体験に安住せず、新手を打ち続ける
シヤチハタ株式会社 代表取締役社長 舟橋正剛
伝票にポン、書類にポン――。オフィスで毎日のように利用されている〝シヤチハタのスタンプ〟。一見アナログなイメージを持ってしまいがちだが、実は同社は早くから電子文書に対応するサービスを展開している。その歴史を紐解くと、革新に次ぐ革新があった。
電子捺印サービスを無料で開放
新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言下、多くの会社で在宅勤務が導入された。そのなかで課題となったのが、企業などでの決裁の在り方だ。「はんこを押すためにだけ出社しなければいけない」との嘆きの声も上がっていた。そうしたなかで、シヤチハタは、クラウド捺印サービス「パソコン決裁Cloud」の無料開放に踏み切った。
パソコン決裁Cloudは、認め印などを電子印鑑として登録し、各種文書の回覧や捺印をウェブ上で行えるアプリケーションだ。3月から6月までの無料開放期間中、27万件近い利用申し込みがあったという。
シヤチハタのスタンプといえば、はんこの代名詞。朱肉を使わず手軽に押せるネーム印や日付印は、多くの企業で愛用されている。そんな同社が「パソコン決裁」サービスをリリースしたのは1995(平成7)年、実に25年も前である。代表取締役社長の舟橋正剛氏によると、きっかけは危機感だった。
「ちょうどオフィスにもパソコンが入り始めた時期です。ペーパーレス化も唱えられ、将来、はんこの出番がなくなりかねない。そうなる前に手を打ったわけです」
ところが、25年間、サービスは「なかなか普及しない」(舟橋社長)状態を続けた。それでも、いつかは実を結ぶだろうとバージョンアップを繰り返していたのである。無料開放の終了後も利用を続けたいと、6月のうちから有料契約に切り替えるユーザーも続出した。
好評を博した理由は、1印鑑につき月100円というわかりやすい料金体系に加えて、パソコンやスマートフォン、タブレットとデバイスを選ばず使えること。何より、一般的に行われている決裁の手続きそのままに使える利便性の高さが、導入へのハードルをグンと下げているのだろう。
取引先の向こうにいるお客様を思って
振り返れば、同社の100年近い歩みは、革新の歴史と言える。創業者は、使う前にインク補充が必要な従来型のスタンプ台の不便さに着目し、インクを補充しなくても使える「万年スタンプ台」を開発、商品化した。さらに65(昭和40)年、スタンプ台のいらないゴム印として「Xスタンパー」が誕生。その3年後に登場したネーム印(その後、現在の「ネーム9」にモデルチェンジ)の普及たるや、周知の通りだ。そして、パソコン決裁に至る。従来の自社製品を否定するような開発が繰り返されているようだが、舟橋社長の捉え方は異なる。
「どれも将来どうなるのかを予測し、どんなものが求められるかを考え抜いた結果として、必然的に生み出した製品です。しかも、従来品のニーズは途切れず、新製品と共存しています」
取材・文 米田真理子
撮影 亀山城次
本記事は、月刊『理念と経営』2020年9月号「特集」から抜粋したものです。
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