『理念と経営』WEB記事

「理念の共有」が 一層求められる時代に

早稲田大学ビジネススクール教授  入山章栄

想定外の危機だからこそ、イノベーションを起こすチャンス――と入山教授は言い切る。中小企業の強みであるオーナーシップを発揮し、長期的な視点で変革の種を探す。そして、そのときに必要になるのが「理念の共有」だと言う。

“遠くを見る”ことがなぜ必要なのか

 新型コロナウイルスによる経済的な混乱は、なかなか終息が見えません。こういう想定を超えた困難な状況の中でどう会社経営をしていけばいいのか。これは難しい問いです。短期的には、なんとかコストを切り詰めて、現金などの流動資産をうまく確保しながら、当面の危機を乗り越える、という月並みなことが答えになってしまいます。
 実は当初、私も今回の事態はリーマン・ショック(2008年)よりも性質は悪くないと思っていました。パンデミック(世界的流行)が終息すれば経済が戻ると考えていたのです。ところが予想以上に感染拡大が激しく、長期化していました。加えて、経済の停滞に伴う原油価格の下落も続き、事態の好転は世界的にも望めない状況です。
 ただ、確かに全体としては厳しいかもしれませんが、今回の出来事によって社会が大きく変わろうとしています。それだけにチャンスの種はいっぱいあるのです。短期的にはなんとか耐え切っていただいて、この状況を、会社を変革するチャンス、新しい事業を起こすチャンスだとポジティブに捉えることが大事だと思っています。
 では、どうすればチャンスの種をつかめるのか。一つ言えるのは〝遠くを見る〟ことです。
 イノベーションの原理は何かというと、既存の知と別の既存の知との「新しい組み合わせ」を見つけることです。私たち人間は、まったく何もないゼロの状態から新しいアイデアを生み出すことはできません。すべて組み合わせなのです。イノベーションの概念の生みの親であるシュンペーターのいう「ニューコンビネーション」です。遠くを見るのは、そのために必要なことなのです。
 人間はどうしても目の前のものだけを見る傾向があります。だから多くの企業も、これまで目の前にあった知の組み合わせを散々やってきました。もうやり尽くしてしまって、そこではイノベーションは生まれません。
 フォード・モーターの創業者ヘンリー・フォード(1863〜1947)が自動車のライン生産による大量生産方式を思いついたのは、豚を屠殺[とさつ]する食肉工場を見たことだったそうです。航空宇宙業界でステンレスやチタニウムに微細な穴を開けて加工・切断する技術が、まったく異分野の紙おむつの吸収力を高めるために使われています。
 このように、まったく違う知と知が合わさるときに新しい知が生まれるのです。そのために遠くを見る。世界の経済学ではこれをexplorationと呼びます。私は「知の探索」と呼んでいます。イノベーションを生む基本中の基本の原理です。

効率ばかりでは、「革新」は生まれない

 遠くを見るにはさまざまな手段があります。例えば今まで知らなかった人に会う、これまで興味がなかった分野や人物の本を読む、あるいは知らない場所に行く。そういうことを続けることです。そのとき言ってはいけない「キラーワード」があります。それは「事業に直結するのか」という言葉です。


取材・文 鳥飼新市
写真提供 入山章栄研究室

本記事は、月刊『理念と経営』2020年7月号「巻頭特別企画」から抜粋したものです。

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