『理念と経営』WEB記事

相手に喜ばれること。 それこそが仕事の原点です

クリエイティブディレクター 佐藤可士和

「気遣い」と聞いて、“相手におもねる”などのネガティブな印象を持つ人もいるかもしれない。しかし、日本を代表するクリエーター・佐藤可士和さんの見方は違う。この「気遣い」にこそ、仕事ができるかどうかの本質が現れ、優れたビジネスマンに欠かせない重要な能力の一つだと説いているのである。さて、その心とは。「特に若い人たちには知っておいてほしい」と話す佐藤さんの話をじっくりと聞いてみよう。

「気遣いができる」とはどういうことか

 クリエーティブディレクションという華やかな領域で活躍されている佐藤可士和さん。著書『佐藤可士和の打ち合わせ』(日経ビジネス人文庫)に、意外なフレーズがあった。“相手を気遣えるかどうか。そういうところにこそ仕事ができるかどうかの本質が現れる――”。気遣いをする力が、仕事を大きく分けるというのだ。佐藤さんは語る。
「仕事の相手がどう思っているか、どんなことを求めているのかを、どのくらいイメージできるか。僕は、そうしたイメージ力こそが、仕事力だと思っているんです。もっとわかりやすい言葉で言えば、先を読む力。仕事をする上で、ものすごく大切な力です。その中のマインドの部分が気遣いなんです」
 気遣いや気配りは、大切なイメージ力の一つだと考えるべきだ、と佐藤さん。その力を高めることができれば、何より相手に安心感を与えられる。
「気遣いはしないといけない、というより、できていないと損になる、ということを特に若い人には知っておいてほしいですね。この人は大丈夫かなぁ、と思われるところから仕事が始まってしまったら、とにかくもったいない。信頼してもらえないと、相手から正確な情報が引き出せません。正確な情報が引き出せないと、相手が求めることに的確に応えられず、やり直しなどの痛い目にも遭いかねません」
 では、気遣いができるとはどういうことか。例えば、テレビCMの制作依頼を受ける。前作がどんなCMだったかを佐藤さんは当然、知りたい。しかし、気遣いができる人は、前作だけを用意しない。「きっと佐藤さんはこんなものも欲しいはずだ」と去年のもの、おととしのものもちゃんと用意しておく。そうすれば過去のCMと似たような企画は除外して考えられる。さらに気遣える人は、そればかりではない。競合の会社がどんなCMを作っているのかも調べて用意しておくのだ。
「ここまで用意周到だと、この人はデキるな、と認めないわけにはいかないですよね。先を読んだイメージ力がある人だ、ということです。これからのプロジェクトも楽しみになります」

「相手が何を求めているか」頭を巡らせてみる

 逆に、佐藤さんが何を求めそうか、先のことをイメージできないと、佐藤さんが依頼するまで去年のものや競合のものは出てこないことになる。これでは、打ち合わせが何度も必要になったりする。
「こうしなければいけない、などと難しく考える必要はないんです。相手が何を求めているのか、ということをしっかり考えてみることです。きっとこういうものが必要になるんじゃないか、こうすることが求められているんじゃないか、と頭を巡らせてみることです」
 それがメッセージとして相手に伝わる。そこから信頼感が生まれていく。そしてこうしたメッセージは、知らず知らずのうちに発信されていることにも気づいておく必要があるという。例えば、どんな服装をするか、ということもそうだ。
「ちゃんとした格好をしないといけない、などと杓子定規に考える必要はないんです。そうではなくて、どんな服装が求められているのか、ということを自分の頭で考えてみることです」

取材・文 上阪徹
撮影   小川佳之

本記事は、月刊『理念と経営』2020年6月号「佐藤可士和の「気遣い力」」から抜粋したものです。

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