『理念と経営』WEB記事

新入社員のあなたに伝えたいこと

プロゴルフコーチ 青木 翔

2018(平成30)年にプロテスト合格を果たすと、翌年に全英女子オープンという世界のメジャー大会で優勝、国内ツアーでも4勝し賞金ランキング2位に。「シブコ旋風」を巻き起こした彼女の強さの秘密を聞いた。

とにかく1年間、
ぶっちぎりで練習しました

  渋野日向子の強さの源泉は練習にあります。練習は特別なものではありません。基礎的なことばかり。いわば基本の反復練習です。
基本技術はゴルフ選手の土台です。土台はどれだけ頑丈にしてもいい。それは誰もが理解しているはずですが、では誰もが基本を繰り返し丁寧に練習しているかと言えば、お茶を濁す程度で片づけがちです。
ところが渋野は、基本練習を徹底してやります。時間にして7~8時間。プロゴルファーはゴルフが仕事なのですから、会社員が会社で働くのと同じ時間を練習に振り向けるのは当然でしょう。
ある試合で予選落ちした日も、渋野は土砂降りの雨の中、かっぱをびしょぬれにしながらずっとパットの練習をしていました。けれど、それは予選落ちしたから特別よく練習したということではありません。練習するのは当たり前のことで、それが渋野の日常になっているのです。しかも一昨年から変えることなく、ずっと同じ練習を続けています。
ウェッジ系のクラブは1年間で6~7本つぶしました。ボールと同じくウェッジは消耗品という認識です。
私の知るかぎり、渋野よりも練習している選手はいません。とにかく1年間、ぶっちぎりで練習しました。年間を通じて、ぶれることなく基本練習を重ねてきたことが、あの結果をもたらした最大の要因だと捉えています。
全英女子オープンで優勝して以降、渋野は練習の様子までテレビなどで報じられるようになりました。例えばパッティングの練習。カップの周りに扇状に9つボールを置き、すべてが連続してカップインするまで何度でも繰り返すといったものです。
途中で、今日はもういいやとなることはないのかとよく聞かれますが、そうしたことはありません。やったほうがいいことを、やらずに済ませていい理由はどこにもないからです。
渋野は1度プロテストに落ちています。苦い経験をしただけに、日々の練習の大事さをよく知っているのでしょう。
今日はこの練習をこれだけやるという目標を設定し、その目標を達成することで、ほんの少しずつですが技術は磨かれ自信もつきます。そうして土台が強くなると、揺らぎが生じても大きな揺らぎに至らず、崩れない。すぐに元に戻せます。
夢は小さな目標を達成していった先にあるものですから、これからも目の前の目標をクリアするという“小さな成功体験”を積み重ねていくのでしょう。

素直さと鈍感力、
そして情報処理能力

  渋野のコーチになったのは2017(平成29)年です。契約先のゴルフ用品メーカーから「どうにかしてくれないか」と依頼されたのでした。
まず一緒にラウンドしました。ありのままの状態を見て、いいところ、苦手としているところを把握し、どこを伸ばせばいいかを見極めるためです。
そのときの印象は「下手だなあ」でした。とはいえ、何かありそうだな、とは思いました。
ゴルフ選手が伸びる条件は、「素直さ」と「鈍感力」だと私は思っています。渋野はこの条件を見事に満たしています。言われたことを素直に受け入れますし、細かなことは気にしません。
私が受け持っているのは、技術面、メンタル面、スケジュール管理、クラブセッティングです。ほぼすべてを見ています。この他、体のことはトレーナーさん、スポンサー関係のことはマネジャーさんやマネジメント会社が担当し、身の回りのことは家族が支えます。
われわれサポートする側は、渋野がゴルフに集中でき、楽しく、思い切ってプレーできるようにするために絶えず話し合い、連絡を取り合います。
ただし条件がつきます。それは渋野日向子という人間が自立できていることです。自立できていない人間を周りが支える状態だと、甘やかすだけになります。
渋野の場合、ステップ・アップ・ツアーを1人で回っていましたから、そのときに家族の大切さや、コーチの存在の必要性、体のことはプロに任せるべきだといった認識と理解が生まれ、今があるのだと思います。
伸びる選手の共通点はなかなか見いだせません。成長軌道に乗るタイミングはまちまちですし、成長のスピードも異なります。あえて挙げるなら、素直であり続けられること。それと情報処理能力でしょうか。
注目されてくると、周りがよかれと思っていろいろなことを言います。もっとレベルが上がってから取り入れたほうがいいアドバイスをうっかり取り入れると、すべて変わってしまう可能性もありますから要注意です。
自分で判断し、取捨選択もしくはシャットアウトできればいいのですが、自分1人で処理できなければ、信頼できる人に要不要を確認し、不要な情報はすっぱりと断ち切る。それができるかどうかが重要です。

取材・文 中山秀樹 
撮影 丸川博司

本記事は、月刊『理念と経営』2020年5月号「小特集」から抜粋したものです。

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