『理念と経営』WEB記事

5Gは中小企業に 何をもたらすのか

株式会社野村総合研究所 I CTメディア・サービス産業コンサルティング部
テレコム・メディアグループマネージャー 亀井卓也 氏

2020 年3 月から5G サービスがスタートする。5G が普及することでAI、IoTなどのデジタル分野がさらに発展することが予想されている。5G によってビジネスがどう変わるのか、そのための準備は何をすればいいのか。『5G ビジネス』(日本経済新聞出版社)の著者である野村総合研究所、亀井卓也氏に聞いた。

5Gが持つ三つの特徴が企業、生活を大きく変える

―5Gの3つの特徴「高速大量通信、超信頼・低遅延通信、多数同時接続」とは、どのようなものなのでしょうか?

《亀井》 通信の標準化をしているITUというヨーロッパの組織が、通信の次世代規格である5Gについて、ビジョンとしたのがこの三つでした。その意味で、5Gになったらこれができる、というより、5Gでこれを目指そう、というものなんですね。
高速大量通信は、端的に例えばスマホの通信がこれまで以上に速くなるというもの。超信頼・低遅延通信は5Gの目玉の1つで、反応が遅延なくリアルタイムに行われることです。多数同時接続がもたらすのは、あらゆるところにセンサーが埋め込まれても大丈夫になること。これによって、ネットワークの向こう側のロボットや上空のドローンがより思い通りに動くようになったり、こちら側のあらゆるデータがアップロードできるようになる。これが5Gの大きな特色です。

―昨年12月21日からローカル5Gの申請受け付けが始まりました。現在の日本での5Gの実情はどんなものなのでしょうか。

《亀井》 今年3月からサービスを始めると宣言している通信キャリアもあり、少しずつ5Gのエリアが準備されています。ただ、いろんな場所で同時多発的にエリア展開がなされるわけではなく、やはり都市部の一部のエリアから始まっていくことになります。
一方で、サービス開始前の「プレサービス」として体験するという形で消費者を盛り上げる取り組みが昨年から行われてきました。フジロックフェスティバルやラグビーワールドカップ、ドローンレースなどで、5Gがどう使われるのか、消費者が体験することに
なりました。今後は東京オリンピック、パラリンピックもあり、いろいろな具体的な取り組みが出てくると思います。
ローカル5Gは、特定エリアや建物の中だけで周波数が割り当てられ、通信事業ができるというもので、受付直後より申請が行われています。注目は、工場内での使用です。受注がどんな状況にあるかを把握して稼働率を100%に近づけたり、電力のピーク値を識別して停電リスクを回避するなど、いろんな情報を通信網で行うことで競争力の源泉にできる可能性があります。

5Gが変えるのはライフスタイルだけではない

―消費者のライフスタイルはどう変わっていくのでしょうか? また、どんな社会課題が解決されると予想されますか?

《亀井》 スマホの高機能化に加え、眼鏡や時計、イヤホンなど、人間のあらゆるところにデバイスが提案されていくと思います。眼鏡を使う、あるいは耳をふさがずにつけられるヒアラブルデバイスが広がる。すでに音楽以外で、心地良い音が流れるような新しいコンテンツも生まれてきています。デバイスが分散化するということです。
腕につけるものはヘルスケアのデバイスとしても使えます。健康状態を常にモニターしてデータをアップしてくれて、病院に行くとそのデータを医者も見られる、といったデジタルヘルスケアが進んでいくでしょう。
社会課題の解決としては、コネクテッドカーが挙げられます。車がネットワークにつながり、あらゆるところにセンサーがつき、データをクラウドに送られることで、より安全性を高めることができる。例えば、カメラが撮影する映像をリアルタイムで伝送し、ミラーの代替として後方を表示する、音声でアラートする。また、前を走っている車から見える映像を送信してもらうことで、前方車両のさらに前方の状況を把握できたりする。
遠隔医療も5Gらしいものになっていくはずです。地方の診療所のドクターが、都市の大学病院とつながり協業していく、といったことも当たり前に行えるようになります。
そしてシンボリックな変化としてわかりやすいのは、やはりマーケティングや広告ですね。センサーによってどんどんデータが集められていきますので、よりその人にターゲティングしやすくなります。車を運転中、フロントガラスに「空席があります」「駐車場も空いています」といったレストラン情報が出たりする。一人で乗っているとき、夫婦で乗っているとき、家族で乗っているときで、違うレストラン情報が出てきたりする。パーソナライズが、よりダイナミックになるということです。

取材・文 上阪 徹 
撮影 編集部

本記事は、月刊『理念と経営』2020年3月号「5Gは中小企業に 何をもたらすのか」から抜粋したものです。

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