『理念と経営』WEB記事

本業一本、継続・集中・徹底で王道を極める

広島市信用組合理事長 山本明弘 氏 ×元伊藤忠商事株式会社取締役会長 丹羽宇一郎 氏

中小零細企業を主な顧客とする広島市信用組合。小口多数の「預金」を集め、本来業務である「融資」に特化して、15期連続で増収増益を果たした。その礎を築き、「融資はロマンだ!」と確信した山本理事長と、「中小零細企業の発展こそが、日本の明日につながる」という持論の丹羽先生が展開する「地方再生の決め手」とは――。

雨が降ったときに傘をお貸ししたお客様は、
簡単に浮気はしない

――山本理事長が書かれた『足で稼ぐ「現場主義」経営』の冒頭に、「金融機関は、雨で傘がほしいときには貸そうとしない。天気で傘がいらんときに貸したがる」というくだりがありますが、その通りだなと思いました。

山本-残念ながら、多くの金融機関において、その姿勢は今もあまり変わりありません。しかし、本来、金融機関は金貸しですから、「融資ありき」のはずなのです。
 今から51年前、私は22歳で広島市信用組合に入り、本店営業部の貸付窓口係になりました。来店されるお客様は若造の私に、「何とか1000万円の融資をお願いします」「何とか2000万円を」と、体を九〇度も曲げるのです。
 そのとき私は、お金を貸せば預金も積み立ても年金も何でもとれる、と思いました。そして、もっと融資をとろうと営業部長に、「私を外交に出してください」と直訴しました。半年後に念願が叶ったとき、「部長、絶対業績上げますよ」と啖呵を切ったものです。
 私は名刺を持って、一軒一軒、新規開拓しました。しかし、行く所、行く所から「うちのメインは広銀じゃ」「うちのメインは広島相互じゃ」と断られました。優良企業であればあるほど、メインバンク以外から新たな借り入れを行うことはめったにありません。私はこのときになって初めて、お金を借りていただく、使っていただくことの難しさを痛感しました。
 この経験がその後の50年間、私の一貫した営業の原点になったのです。従って、私の職員教育では、「傘がいるというのなら、何とかして貸してあげいや。融資ができなければ、うちでは偉くなれんで」と言っています。

丹羽-低金利時代には、まさに、理事長のこの50年間の積み重ねが活きますね。おそらく、業績は他の金融機関より良くなっているはずです。

山本-はい。その通りです。

丹羽-それは、他にはない「お金を使っていただく」という精神があるからです。低金利時代は、どこの銀行も貸したがります。しかし、お客さんは、低金利だからといって手のひらを返すように、他にはなびきません。

山本-そうなんです。雨が降ったときに、傘をお貸しすることができたお客様は、金利が1%安いから、0.5%安いからといって、浮気はしません。

丹羽-理事長の温情は、心に染みていますよ。

山本-最近の話ですけれど、再生医療ベンチャーのツーセルが広島大学と提携して、膝の軟骨の損傷をMSC(間葉系幹細胞)を用いて再生させる研究をしています。6、7年前には売り上げゼロ、数億円の大赤字でした。銀行は当然、融資しません。
 その話を聞いて、早速、広島大学に行きました。私は素人ですが、皆さんの一生懸命研究されている姿に感じ入りました。ふと、「研究者の着衣はどのくらいするのですか」と聞きましたら、一着2万円とおっしゃる。「しかし、いったん研究室の外へ出たら雑菌が付くので、もう同じものは着られません」と……。これだけでもとんでもないお金が要るのだと驚きました。
 そして私は、この研究は日本のみならず、世界に貢献できるのではないかとほれ込み、「よし、それなら」と総額3億円ほど融資をさせていただきました。ツーセルは、今年中にマザーズに上場するところまできています。

丹羽-ほお。

山本-2、3年前には、大手の中外製薬や大塚製薬とライセンス契約を結んで、多額の契約金が入りました。もちろん、うちの借り入れは全額返済されました。『日本経済新聞』でライセンス契約のことが記事になると、よその銀行が飛んでいったそうです。「広島市信用組合は金利が高いでしょう。うちを使ってください」と。でも、きっぱりとお断りをされて、今もずっとお取引いただいています。
 私は職員に、「融資はロマンじゃ!」と言うんです。やはり、融資した小さな企業が、年月を経て上場し、300人、400人の規模になっていく。そんな姿を見ると、こたえられません。これが地元の中小金融機関のあるべき姿ではないでしょうか。

丹羽-昔から「お金を追いかけるとお金が逃げていく」といわれていますが、これは私の考え方の鉄則でもあるんです。お金を追いかけるというのは、悪いことをやってでも追いかける、ということです。理事長の組合は、どこの会社でも使っていただければいいと、お金をばらまくわけではない。経営者の熱意ある心にほれて、ぜひその仕事に役立ててほしい、という意味ですね。

山本-まさしく図星です。誰も彼もじゃありません。それでは倒産してしまいます。お金を使うのは非常に難しいことなんです。

丹羽-そうですね。

見る人が見れば、企業の将来性は、
化粧していても見抜けるのです

丹羽-ところで、融資の決裁を3日でなさるそうですが、すごいスピードですね。

山本-お客様の最大のニーズがそこにあるからです。お客様は融資の審査結果の、イエスかノーをできるだけ早く知りたいと思っておられるのです。駄目なら駄目で、それが早くわかれば、すぐに次の手を検討できますから。
 本部や支店が、決算書のデータを使った「定量評価」(数値化できる情報で評価する手法)だけで、融資の判断をするのは絶対に危険です。当然、定量評価もしますが、それ以上に大事にしているのが、現場の職員たちが足で集めてきた各取引先の「定性情報」(数値化できない情報)です。

丹羽-ええ。

山本-私は昔から、中小零細企業の現場に行くことが大好きなのです。今も、私の車のトランクには、最低15個のまんじゅうが入っています。それを持って、アポイントも取らないでふらっと訪ねていく。社長がいらっしゃらないことも多いですが、そうしたときは経理部長や従業員に会います。事務所に入った瞬間の雰囲気、工場の整理状況、稼働状況を見せていただくのです。
 そうすると、ここは本当に一生懸命やっている。これは書類で見た以上に業績がいいのではないか。ラインの動きもいい。特に金型は、きれいに掃除をして整理整頓しておかなければ誤差が出ますから、そうしたところも観察します。

丹羽-「すべては現場に宿る」という言葉がありますが、現場を見るというのは数字だけでなく、今、言われたようなところを見ることです。化粧をして、打ち水をして掃除されたところを見ても仕方がありませんから。

山本-おっしゃる通りです。

丹羽-融資をするとき、ものを見る目、あるいは、技術を見る目のある人が成功するといわれていますが、そうではありません。いい融資をする人は、製品や技術ではなく、背中を通して経営者の「心」を見抜き、「この人はいけるぞ」と直感する。その結果、融資に踏み切る。だから成功するのですね。

山本-私は常々、「お金を追うな。人を追え」と職員たちに言っています。いくら資産があっても、うそをつく経営者は大嫌いです。世のため人のために愚直に取り組む。そういう経営者を応援させてもらいたいのです。

本記事は、月刊『理念と経営』2019年5月号「巻頭対談」から抜粋したものです。

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