『理念と経営』WEB記事

「考えることをやめれば、生みだす力はゼロになる」 ―北星鉛筆の「大人の鉛筆」―

北星鉛筆株式会社 代表取締役社長 杉谷 和俊

一見したところ木製のシャープペンだが、太さ2mmの芯が出てくる。書き味はまさに鉛筆そのものだ。おまけに便利な芯削り器が付いている。北星鉛筆株式会社の「大人の鉛筆」は、5年にして100万本を超えるヒット商品となった。魔法のごとく、鉛筆の魅力をよみがえらせた秘密とは――。同社の杉谷和俊社長に聞いた。

鉛筆の良さを追求

鉛筆は便利だが削らなくては使えない。そこでノック式で芯が出てくるシャープペンが登場し、削る必要はなくなったが「芯が折れやすい」という欠点があった。シャープペンの利点も生かしながら、あくまで鉛筆の良さ、書き味を実現するにはどうすればよいか――。これが「大人の鉛筆」のそもそもの発想だった。
 杉谷社長は試行錯誤を重ねてきた。木の軸にこだわり、芯は2mmにするところまでは固まったものの、最後の難関が芯を押さえるゴムだった。
「芯を自由に出し入れする決め手になります。数年かけてようやく最適のゴムを見つけることができ、実用化にこぎつけました」

「アリの目線」「鳥の目線」

ネーミングをどうするか。工場見学に来ていた子ども連れの母親の「鉛筆は子どものものだから、大人が使う鉛筆は買いに行っても売っていない」との言葉がヒントになった。
「日本の人口構成から見ても、子どもがどんどん減っています。大人が使いたくなる鉛筆なら市場ももっと広がると気づいたのです」
 杉谷社長の目論見が当たる。発売した2011(平成23)年に「日本文具大賞」を受賞するとともに、この鉛筆を買った大人たちから多くの礼状が寄せられた。
「子どもの頃の鉛筆に対する良い印象が残っているんです。ボールペンやシャープペンは試し書きしてから使いますが、鉛筆には『必ず書ける』という安心感がある」
 こう説明する杉谷社長には、独自の開発の信条がある。
「まず相手の気持ちになることです。自分だけのことでやると大抵失敗します。みんなのことを考えていくと、逆に応援してくれる。もう一つはアリと鳥の目線です。アリの目線だと細かいことはよくわかるけど全体が見えない。自分の頭の中で鳥になってみると全体が見えてくる。時代の流れもわかります。絶えず自分の頭の中で鳥になったりアリになったり、行ったり来たりしながら考える癖をつけていくと、正しい判断ができるようになる。経営も同じで、自分たちの生きる方向性をしっかり見つめて、どうすれば価値ができるかを考えるのです。考えることをやめたら、生みだす力はゼロになる。商品開発はできません」

鉛筆産業存続への思い

不況業種といわれて久しい鉛筆産業だが、なにゆえ杉谷社長は鉛筆にこだわるのか。根底にあるのは、創業者の祖父が遺した言葉「鉛筆は我が身を削って人のためになり、真ん中に芯が通った人間形成に役立つ。利益にとらわれないで鉛筆のある限り、家業として続けよ」であり、「鉛筆は人を裏切らない」との信念である。
年々縮小する鉛筆市場にあって、いかに家業を存続させてきたのか。見逃せないのが鉛筆ファンを増やす地道な努力だ。

取材・文 今井一夫 
撮影 編集部

本記事は、月刊『理念と経営』2016年7月号「攻めの一手」から抜粋したものです。

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