『理念と経営』WEB記事

トップの仕事は「会社の未来」をつくることだ!

株式会社ローランド・ベルガー 日本法人会長 遠藤 功  ×  株式会社ファミリーマート 代表取締役社長 澤田貴司

経営統合を繰り返し、規模を拡大してきたファミリーマートは、店舗数でセブン‐イレブンに次ぐコンビニ第2の地位に躍り出た。
「私の役割は結果を出すことに尽きる」と断言する。
生産性を上げるために人に「やる気」を発揮させる仕組みをどう構築するか、現場力に精通する遠藤功会長と語り合った。

本部が現場の視点に立たないと実務のひずみが生まれる

遠藤 - 御社は2月12日、本社が池袋のサンシャインから田町に移られました。平成が終わって新しい時代に変わるし、新生ファミリーマートの船出を新天地からスタートしようということですか。

澤田 - そんなに力んではいませんが、社員により良い環境で働いてもらうことは、経営陣の重要な仕事です。
ファミリーマートは経営統合により規模を拡大し、セブン-イレブンさんに次ぐ第2の店舗数(1万7000店)となりました。今日のコンビニの競争原理において規模感は極めて重要ですから、それ自体は正しいと思っています。一方で、2016(平成28)年、私が社長に就任したときは、オペレーション(実務、作業)の質にひずみが生じている、と強く感じました。
例えば、マニュアルについてです。今、現場で働く従業員にはレジ打ちだけでなく、公共料金の支払い、揚げ物などの店内調理、宅配便の受け渡しなど多岐にわたる業務をこなすことが求められています。それに合わせてマニュアルも経営統合を重ねるうちに足し算が繰り返され、約1000㌻にも及ぶものになっていました。
一作業1ページで完結する漫画仕立てのマニュアルに作り直し、約100㌻までページ数を削減しました。これまで本部が現場の視点に立てていなかったことで、時代に合った見直しがなされず、ひずみが生まれていたのです。

遠藤 - 現場の問題ではなく、ルールのほうがおかしいと。

澤田 - はい。こういった課題の大きさや問題の本質は現場に行かない限り、絶対にわかりません。

遠藤 - 成長の過程で出てきた問題点を一つひとつ潰して……。
2年半で1800回以上実施しました。気になることはすぐにテーマとして挙げて、期限を決めて社員と徹底的に議論する。内容によっては一度では結論が出ずに、何度も繰り返すこともあります。そうして問題の本質を掘り下げて考えないと、店舗の質を引き上げられるような、実態に即した支援策には結びつきません。

遠藤 - 確かに、今、コンビニは質的な変化が求められていますね。澤田社長から見て、コンビニはどういうふうに進化していきますか。

澤田 - コンビニの一番の強みは、加盟店の皆さんが店舗のオーナーとして、自店の利益を上げていく、「サバイブしよう!」という貪欲さを持っていらっしゃることです。だからこそ、「変化」を店舗の質を上げるチャンスととらえることができるのです。

遠藤 - 加盟店さんの自律性ですね。オーナーシップも強い。

澤田 - そうですね。例えば、一月に始まったPayPay(スマホ決済アプリ)に集客メリットがあると思えば、自分の店舗で確実にお客様に使っていただけるように、直ちにオペレーションを徹底します。

遠藤 - 合理的、現実的に判断するということですね。

澤田 - それは非常に心強いことです。ですから、私たちが加盟店さんから「本部はいいものをつくったな」と思ってもらえるようなシステムやアイデアを提供し続けることが重要なのです。

遠藤 - 澤田社長がファミリーマートにいらっしゃる前のことですが、私は優良加盟店のオーナーさん向けの研修を行ったことがあります。そのときオーナーさんとお話ししていると、本部から細かいルールを言われて、なかなか自分らしい店舗運営ができないもどかしさがあるように感じました。例えばある加盟店のオーナーさんは、冬の寒い時期に、お店の前で「足湯」を出してあげたそうです。
おじいちゃん、おばあちゃんなどが気持ち良さそうにして、すごく評判がいい。にもかかわらず、本部からは認められなかった。「サービスの一環だし、うちはおじいちゃん、おばあちゃんのお客様が多いんだから、それでいいじゃないか」と言ったようなのですが。もちろん、衛生面の問題などありますが、現場の人たちや加盟店さんの自律性をどう生かすのかが大事だということですね。

澤田 - 遠藤さんのお話をお伺いする限り、この加盟店さんは、自分たちのお客様は高齢の方が多いということをよくご理解されていて、何をすれば地域の方に喜んでいただけるか、きっとさまざまなアイデアをお持ちなのだと思います。
地域のことを一番よく知っている加盟店さん自身が、地域に喜ばれる店舗運営を自ら考える、そして本部はそれが実現できるように知恵を絞って最大限のサポートをする。これがあるべき姿だと思っています。もちろんチェーンとしての最低限のマニュアルは必要ですけれどね。

遠藤 - 加盟店の個店主義的なアイデアや知恵に対して、本部がサポートしていけば、まだまだコンビニは成長の余力がありますね。

澤田 - 非常にあると思っています。今日も世田谷のSVたちと議論しました。「店の周りにどういう会社があるかを全部調べたことがあるか。その会社の社長さんは誰で誕生日はいつか。創立記念日はいつか。調べていなかったら調べなさい。歩くことだ。誕生日や創立記念日に『おめでとうございます』とお祝いを持っていきなさい、全然違うから。それをデータベースで蓄積しなさい。デジタルとか難しいことを言っているのではなく、そこから始めるんだ」と。

遠藤 - なるほど。

いかに生産性を上げて、利益を重ねていくか。これに尽きます

澤田 - どうすれば加盟店さんが喜ぶか、どうすればあなたたちSVが加盟店さんと一緒に商売を楽しむことができるのか、もっと考えるべきではないか。そして約1万7000店で働く20万人のストアスタッフさんがそれを実行したら、この会社の成長余力はハンパないと思いませんか。そうした会社を絶対につくります。

遠藤 - SVの方の仕事も変わってきますね。

澤田 - はい。もっとお客様に近づく、もっと地域に近づく、もっと加盟店さんと一緒に仕事をする。そんな仕事にならなければいけない。
私は、営業現場と本社の社員は、明らかに違うスタンスにいると思っています。本社は、マーチャンダイジング(商品化計画)やマーケティングが誰よりも優れていなければいけません。ITなら、プログラミングについての専門的な知識を持たなければならない。すなわち、経営に関わる根幹のみを担う。一方、営業現場の社員は現場に根付き、密着して、加盟店と一緒にどう地域の方に喜んでいただける店舗づくりができるかを徹底的に考え、実行してほしい。

遠藤 - 本社は専門性が高く、少ない人数でいいということですね。

澤田 - 生産性を上げられる人しか本社には要りません。いかに生産性を上げ、売り上げと利益を上げていくか。これに尽きます。

遠藤 - これまでは、業界自体が成長軌道にありましたから、店舗を出せば売り上げが上がり利益も上がるという構造、いわゆるコンビニ神話がありましたが、今や、数も頭打ちになり、知恵の勝負になってきた、ということですね。

澤田 - ユニクロやアメリカの流通が優れているのはそこです。強烈に優秀な人がいる。ITに長けている人間がトップを務めていることも多く、やはりさまざまなことを科学できる人が結果を出しているなという印象です。

遠藤 - お互いが合理的に判断できて、ファミリーマートの強みもわかっていて、一つの目的実現のために異なるミッションを発揮する。ミッション・ドリブンでやっていきたい、ということですね。

澤田 - はい。生産性という観点からさらに言えば、われわれは統合によって社員の人数が増えており、かつ統合時の「のれん」(買収された企業の時価評価純資産と買収価格の差額)があるということをよく認識しなくてはならないと思っています。社員の生産性をあげて、稼ぐことにもっと貪欲にならなくては。

遠藤 - 多くの「のれん」を償却しなければいけない。

澤田 - はい。その金額も決して小さくない。am/pm、ココストア、サークルKサンクスなどと統合をしながら店舗数という規模の拡大を遂げてきましたが、経営のインパクトからすれば、大きな「のれん」を背負っていることをよく自覚しなくてはなりません。そこがクリアできなければ、この会社の未来はありません。
普通の利益では競合に追いつけないのです。そこを社員はきちんと理解して、自分たちの生産性を厳しく見直してほしい。生産性を上げなければ勝つことはできないのです。

遠藤 - 一見、ハンディキャップのように見えますが、逆に、その目標に到達できれば、より強い筋肉質の組織になり、新しい優位性にもなっていきます。だから、もっと知恵を出さなければいけない。ただ、「楽しむ」という感覚も必要ではないでしょうか。

澤田 - もちろんです。仕事は楽しまなきゃいけない。チャンスもあるわけですから。

撮影 中村ノブオ

本記事は、月刊『理念と経営』2019年4月号「巻頭対談」から抜粋したものです。

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