『理念と経営』WEB記事

時代に合わせて、自らも変わることを恐れてはいけない

澤田秀雄社長には、「旅行業は平和産業である」という揺るぎない信念がある。
そこから展開される、“変なホテル”をはじめ、ロボット・太陽光発電・植物工場の4つの事業を支えているのは、「変化の時代」に対応する構想力とベンチャー魂である。
今こそ、トップは何をすべきか、“事業再生の第一人者”越純一郎氏と縦横無尽に語り合っていただいた。

旅行会社がなぜ、ロボット事業やエネルギー事業に乗り出したか

越 - 私は日本興業銀行(現・みずほ銀行)に在職した22年間の半分以上がニューヨーク勤務で、その経験をへて日本に戻り、秋田の同級生が営む会社の事業再生を行っていました。それが経済小説『ハゲタカ』の素材になりました。

澤田 - 大変有名ですよね。

越 - あの頃に澤田さんを存じ上げていたら、たくさん学べたと思います。今日は澤田さんから「変化の時代」に企業が勝ち残り、発展するためには何が必要なのか伺えればと思います。
まず、基盤事業としての旅行業をベースに新しい事業をいくつもつくっておられるわけですが、どのような哲学、考え方で方針を立てられるのですか。

澤田 - 旅行業は平和産業である―これが私の持論です。2016(平成28)年にヨーロッパ各地でテロが相次ぎ、海外旅行をする日本人が壊滅的に減ったときは、改めてその思いを強くしました。エイチ・アイ・エス(HIS)のお客様の大半はビジネス目的ではなく、観光目的の個人客なので、影響がよりビビッドに出ます。平和であってこその旅行業なのです。
では、なぜ戦争が起こるのか。大半はエネルギーか食糧の奪い合いです。だから、より安い価格で、より安定的にエネルギーや食糧を提供したい。そこで、2013(同25)年8月から、巨大な太陽光発電所を造って、運転を開始しています。

越 - なるほど。

澤田 - さらに食糧不足の解消に有効なのが「植物工場」です。光、温度、湿度などを管理した屋内施設で野菜などの植物を育てるシステムですが、病原菌や害虫の侵入がなく無農薬での生産が可能です。そして、天候に左右されず年間を通じて収穫できるので、価格が安定しています。砂漠や寒冷地など、農業に適さない場所でも作物がとれるようになります。
「どうして旅行会社がエネルギー事業や植物工場なのか」と疑問に感じる方がいるかもしれませんが、私の中ではすべてつながっているのです。

越 - つながった事業を次々と事業化して勝っていくために、何を重視されましたか。

澤田 - より安く安定的に提供するには、生産性を高めることが不可欠です。だから、ロボット事業なのです。ロボットがフロント業務を行う“変なホテル”は実証実験の場でもあるわけです。
ロボットが仕事をしてくれれば、人間の余暇も増える。そして世の中が平和になり、安心して旅行を楽しんでもらえる。かつての「本業」である旅行業にも大きな恩恵があるわけです。
もちろん、ビジネスである以上、利益は無視しません。しっかり儲けつつ、結果的に世のため人のためになりたい。ちなみに、変なホテル、ロボット、エネルギー、植物工場の四つの事業はすべて、ハウステンボスから生まれました。ハウステンボスは単なるテーマパークではなく、先端技術の壮大な実験場なのです。そして「自然の摂理にのっとり、人類の創造的発展と世界平和に寄与する」という企業理念に基づき、取り組んでいます。

越 - 大事なことですね。

澤田 - われわれは面白い、新しい、あるいは、少しでも世の中のためになることがあればチャレンジします。電力業界でも、電力の自由化が始まりましたから、将来は電力会社と競争しなくてはいけない。そうしたことを考えながら進めています。

越 - 戦い方、勝ち方の作戦というのはあるのですか。

澤田 - 業界のナンバーワンを目指すことです。認知度も上がり、ナンバーワンになった瞬間から利益も増えます。

越 - まだ誰も気づいていないマーケットを見つける、といったことも重視して……。

澤田 - はい、オンリーワンです。やっていないことをやるのが一番面白い。そのときのキーワードは「差別化」です。ただし、値段の差別化もあるのでマーケティングは必要ですが……。

越 - ところで澤田さんは「総合旅行会社という業態は、遠からず衰退する」とおっしゃっていますね。

澤田 - 今、旅行業界には大きな地殻変動が起きています。私は1980(昭和55)年にインターナショナルツアーズを設立し(90年、エイチ・アイ・エスに社名変更)、日本に格安航空券を紹介しました。日本の旅行業界に新しいマーケットをつくったと自負しています。
それから38年、もはや、そのビジネスモデルを取り巻く環境は激変しています。インターネットやスマホの登場で、旅のシステムが変わり、楽天トラベルやエクスペディア、じゃらんなど、OTA(オンライン専門の旅行会社)も現れて、成長しています。また、航空券でもホテルでも、顧客自身で手配する海外個人旅行が急増して、旧来の旅行会社を大きく揺さぶっているのです。

越 - 澤田さんはむしろ、旅行業も時代に合わせて変化していかなければならない、というお考えですか。

澤田 - はい。一つのビジネスモデルが通用するのは、長くて30年といわれますが、確かに、30年、40年前とはまったく違います。今や、時代に合ったチャレンジをしていくために、自らも変わることを恐れてはいけません。

越 - デューク大学のキャシー・デビッドソン教授が2011(平成23)年、『ニューヨーク・タイムズ』で、「今年、アメリカの小学校に入学した子どもたちの65%は、大学卒業時に今は存在していない職業に就くだろう」と予言したことはよく日本でも紹介されています。裏返せば、今ある職業の多くがなくなるかもしれないということです。それだけ時代の変化は激しい。澤田さんは50年ほど前に世界を回ってこられましたが……。

澤田 - ドイツに留学したときに4年半かけて全世界を回りました。

越 - そのとき、澤田さんの目に映った世界と、今、世界を旅して俯瞰すると、どこが違いますか。

澤田 - 45年前は、旅の情報は旅行雑誌や旅行会社、あるいは、旅人から得ていたわけです。今や、どこへ行っても10人中、7、8人はスマホを見ています。
異様な光景ですが、これは日本だけの話ではない。アフリカにおいてもスマホは普及していて、全世界の人たちが、スマートに旅をするようになったのです。

結果が出なければ、頭を代えます経営はトップで決まりますから

越 - 今、先進国の多くは人口が減り始めています。それでもまだアジアの国々では人口が増えていますね。アジアはやはり、ターゲットにされていますか。

澤田 - アジアは人口も多いですし、海外旅行はこれからどんどん増えます。だから、アジア全体をマーケットに考えています。やはり、グローバルな視点で考えることが大事ではないでしょうか。

越 - アジアにマーケット拡大の余地があるということですが、旅行会社間で競争が起きますね。同じマーケットで競争に勝っていく鍵としては、どのようなことをお考えですか。

澤田 - 世界で通用するシステムが必要です。その上でわれわれは店舗とオンラインの両方で挑んでいきたい。海外で災害やテロに巻き込まれた、政変が起きた、あるいは、盗難に遭ったときなど、現地に支店があって、同じ言葉を話す人がいてケアしてくれれば安心ですから……。

越 - アジアの国の中でも、親日的な国を深掘りするといいビジネスになりそうだ、といった具合に、何らかの色分けはしていますか。

澤田 - いや、していません。ただ、ベトナムにせよ、タイにせよ、すでに何百人もスタッフがいますが、親日国のほうがやりやすいですね。

越 - 日本では、1952(昭和27)年から放送された『君の名は』というラジオ番組が人気を博し、その放送時間になると銭湯の女湯が空になるといわれましたが、タイでも『クーカム』(邦訳『メナムの残照』)というドラマが放送されると、路上から女性が消えるというほどの人気メロドラマで、映画とテレビで10回以上もリメークされました。その人気作品『クーカム』の主人公はタイの娘アンスマリンと、日本軍将校のコボリ(小堀)です。タイの親日ぶりには本当に驚きます。台湾、マレーシア、インドネシアなどもそうですね。

澤田 - アジアは全般的に親日的ですね。

越 - 澤田さんは2016(平成28)年、ハウステンボスからHISに復帰されたとき、「スピード感」を強調されていましたが……。

澤田 - ビジネスの基本はスピードです。HISはグループで1万7000人ほどです。人が多くなるにつれて小回りが利かなくなり、スピード感がなくなり、成長が止まり始めていました。いわゆる大企業病ですね。
だから「一回戻って、再び世界を目指そう」と……。やはり、大きくなると、決裁も何段階にも分かれますので遅れます。それでは時代の変化に対応できません。

越 - 私が役員研修を行っていたある大手鉄道会社は、タイに一緒に出張するための、社内の出張許可を得るのに3カ月かかりました。

澤田 - それは問題ですね。うちはベンチャーですから、「何事も、まずはやってみよう!もし、失敗したらその原因を見つけて、やり直そう」と言っています。そのうち3回ぐらいチャレンジすると大体、成功していくんです。
私はグループ会社などの経営を人に任せたら口を出しません。その代わり、結果で評価します。もし、結果が出ないようなら、頭を代えます。経営はトップで決まりますから……。経営は大変だけれど楽しい。だから、私がやるときは100%自分でやります。

本記事は、月刊『理念と経営』2019年2月号「巻頭対談」から抜粋したものです。

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