企業の成功法則 社長力・管理力・現場力 三位一体論

〝顧客ファースト〟のおもてなしが生み出す空間

スターバックスのブランドを生みだす根幹は価値観教育です。品質の良いコーヒー豆と焙煎、そして現場のパートナー※のキビキビした動作や笑顔が、家庭でもない、職場でもない、最高のブランドである第三の場所(サードプレイス)を生み出します。現場力は重要なのです。
※注:スターバックスでは一緒に成長するという考えのもと、社員・アルバイトのすべての従業員を「パートナー」と呼んでいる。

「見えざる資産」は現場のパートナー

 日本に先立ち、アメリカでは二〇二〇年からすべての上場企業に対して人的資本の開示が義務づけられています。財務諸表には表れない「見えざる資産」の重要性が増しているのです。〇八年のリーマン・ショックを契機に、「財務諸表のみで企業価値を評価すること」が問題視され、投資家が企業への投資プロセスにESG(環境・社会・企業統治)評価を導入する流れが当然になっています。

 「人間主役の経営」は日本の強みですが、スターバックスのハワード・シュルツ氏は、資金に行き詰まりそうな草創期に、すでに「見えざる資産」に気づき、現場で働くパートナーを主役にして、〝一杯のコーヒーに夢を託す〟バリスタを育てます。ブランドづくりの一翼を担うコーヒーに、バリスタが情熱・熱意・魂を注ぐのです。

 スターバックスは、一九九一年に「Our Mission」を打ち出します。それは「人々の心を豊かで活力あるものにするために―ひとりのお客様、一杯のコーヒー、そしてひとつのコミュニティから」という短いフレーズです。

 このミッションに価値を感じる現場のパートナーが笑顔でお客様をもてなし、キビキビした動作で自主的に主体的に判断する光景がコーヒーに加わり、ブランドづくりを担うのです。

 そこから生み出されるサードプレイスは、形のない独自の雰囲気があります。スターバックス体験とも呼ばれ、商品、サービス、サードプレイスが三位一体となって、スターバックスへの尊敬や信頼、誇り、和みを抱くようになるのです。



不思議な体験ゾーンをつくったシュルツ氏

 スターバックスは今や、知名度、尊敬、信頼、誇り、ステータスを併せ持ちます。二〇二三年一〇月時点の店舗数は世界八六カ国で三万八〇三八店に上り、同年一〇月期の売り上げは約五兆二一三〇億四〇〇〇万円(1㌦=145円換算)、営業利益は七七九二億三〇〇〇万円(同)のグローバル企業です。

 シュルツ氏はミッションをひたすら貫く決意をし、そのミッションを実践したのがバリスタとパートナーです。スターバックスのミッションを自分のものと確信した人が、考え方、行い、おもてなしを心から実行に移すことができるのです。

 シュルツ氏には、①口コミで集客できる、②一杯のコーヒーやおもてなしのこもったサービスでサードプレイスを完成させ、③顧客同士のコミュニケーションを通して啓蒙されていくという確信があったのです。そして、CMをするありきたりのブランドではなく、実際に店に足を運んでみなければわからないという、不思議な「体験ゾーン」をつくりだしたのです。


本記事は、月刊『理念と経営』2024年4月号「企業の成功法則 社長力・管理力・現場力 三位一体論」から抜粋したものです。

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