企業の成功法則 社長力・管理力・現場力 三位一体論

新しい品物みつけるんや、作るんや

「結果を怖れてやらないこと」を悪として、「なさざること」を罪と問うてこそ、「やってみなはれの社風」に根ざした商品が生まれます。現状に甘んじることなく、異分野・新しいことへの挑戦を続ける「やってみなはれ」の精神が、何を成し遂げるにも不可欠です。

ビジネスの原点は現場にこそある

 サントリーのある部署のスペシャリストに「新しい時代の社長学講座」の講師をお願いしました。講演の後、会場から「サントリーさんのマーケティングを一言でお教えください」という質問がありました。その答えは「いろいろなデータも大事、分析も大事、広告も大事、しかし、わが社のマーケティングは、いわば、至極簡単で夜討ち朝駆けです」と、実に単純明快でした。マーケティングに関しても、理屈より「やってみなはれ」の精神が根付いているのです。

 ターゲット顧客にアンケートを取ることも重要です。しかし、「やってみなはれ」の精神からすれば、サントリー創業者の鳥井信治郎氏なら、深夜でも早朝でもお客様に直接お尋ねするだろうという意味にも受け取れます。購入してくださるお客様の声が一番正しい。ビジネスの原点は現場にこそあるのです。

 マーケティングに詳しい経営学者、コトラー氏は、その著『H2Hマーケティング』で、「信用に投資した企業のみが生き残る」と述べています。これは日本人が本来持つ「信用第一」の姿勢です。そして、信用第一を信治郎氏は両親に「当然の如く」教育されていました。

 デジタルやAI(人工知能)の活用も必要な時代です。デジタル時代への対応策を持ちながら、営業担当者であればお客様の「現場」に足を運び、生の声をお聞きすることが大切です。お客様が抱えているペインポイントに肌感覚で触れ、理屈を越えて「お客様のお困りごと」に共感し、「どんな夢や希望」をお持ちなのか、お客様がまだ気づいていないゲインポイントに気づいて夢実現のお手伝いをしていかなければ、本来のマーケティング提案もできないのです。



「やってみなはれ」の精神が成功を促す

「『す、すんまへん。ピ、ピアス号の修理が上がりましたんでお届けにまいりました。ま、ま、まいどおおきにありがとさんでございます』『おう、五代はんの丁稚どんかいな。ピアス号の修理が済んだんやな。ご苦労はん』」

『琥珀の夢 小説 鳥井信治郎』(伊集院静著)での、サントリーの創業者と、丁稚時代の松下幸之助翁との出会いです。

「鳥井信治郎の眼光の鋭さに少年は動けなくなった」と、伊集院静さんは書いています。

「『そうや、さっきも言うたやろう。ええ品物を作るために人の何倍も踏ん張ったんや。踏ん張っても、踏ん張っても、まだ足らん思うて踏ん張るんや。そうしたらあとは、〝商いの神さん〟があんじょうしてくれはる。そのうち坊にもわかる時が来る。ハイカラやな、おまえは……』『ハイカラいうのはどういうことでおますか?』『ハイカラか、ハイカラは新しいいうこっちゃ。どこにもないほど綺麗いうこっちゃ。商いは坊が言うたとおり、綺麗で、新しいもんやないとあかん。それには、これまでの船場のやり方だけやったら大きな店にはかなわん。新しいものを見つけるんや。誰も人がやってへん、どこの店にも置いていない、新しい品物みつけるんや、作るんや。それがこれからの商いや』。少年は今までの丁稚奉公にでた店では聞いたこともない、信治郎の話に耳のあたりが熱くなった」と書かれています。

少年は、幼くしてビジネスの神髄を信治郎氏に多く学びました。衝撃の出会いと、新しい考え方にふれる体験を通して、自分なりに深く考え続けたものと思います。



本記事は、月刊『理念と経営』2024年3月号「企業の成功法則 社長力・管理力・現場力 三位一体論」から抜粋したものです。

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