企業の成功法則 社長力・管理力・現場力 三位一体論

今こそ、学習する社風にしませんか?

『ジャパン・アズ・ナンバーワン』を著したエズラ・ヴォーゲル氏は、「日本の経済成長は『日本人の学習意欲の高さ』がもたらした」と述べています。現場力とは、学習して蓄えたあなたの能力を最大限活かすことです。

リーダーとフォロアーのベストな関係とは

 河井継之助が率いた北越戦争で敗れた長岡藩は財政が窮乏します。禄高を三分の一にまで減らされ、藩士たちはその日の食にも苦労する状態でした。山本有三の戯曲『米百俵』は、三根山藩から送られた百俵の米を、一体何に使うかで始まります。現在の日本が素直に考えるべき問題です。
 
 藩士たちは、これで生活が楽になると喜びますが、藩の大参事、小林虎三郎は、米を原資にして学校設立の費用にあてようとします。「今さえよければいい」「ここさえよければいい」という立ち位置の藩士は、この通達に猛反発して虎三郎のもとへ押しかけ抗議します。

 これらは単なる戯曲ではなく、さまざまな場面で真剣に考えるべき事柄です。組織には経営を司るトップマネジメントがあり、この階層が意思決定をしていきます。トップマネジメントは会社の未来を考え、現場はフォロワーとしてその指示に従います。目的が共有されて前向きな「リーダーとフォロワー」の関係になっている場合と、目的や理念の共有がなされず、協働の自発性も弱く、コミュニケーションもとられず、後ろ向きな「リーダーとフォロワー」の関係になっている場合があります。

 前向きなリーダーと前向きなフォロワーがベストな関係ですが、中には「依存と過剰責任」の関係に陥っている企業があります。

 例えば、藩士は食べ物に困っているのですから、家族や仲間の苦労が肌身に沁みてわかります。『米百俵』のように、藩士の食べ物にあてるというのは当然のことです。

 それに対し藩の未来を案ずるトップマネジメントの小林虎三郎は、「百俵の米も、食えばたちまちなくなるが、教育にあてれば明日の一万、百万俵となる」と、ビジョンを掲げて学校を立てると決意します。ここに食い違いが起こり、いつの間にか成長のない「リーダーとフォロワー」の関係性ができてしまうのです。


立派なリーダーにより目覚めたフォロアー

 『米百俵』は、お酒を飲んで不平不満をぶつけるフォロワーの藩士を、優れたリーダーが時間をかけて説得します。いざとなれば刀でリーダーを斬り殺すという藩士も、最後は「常に戦場に在り」という言葉に納得して鉾を収めます。

 リーダーの小林虎三郎は、若いときに江戸に出て、佐久間象山の下で学びます。もう一人の弟子に吉田松陰(寅次郎)がいて、二虎と呼ばれた歴史的人物です。病弱な小林虎三郎は北越戦争にも反対の立場で、この点については河井継之助とも意見が合いませんでした。

 立派なリーダーであり藩士を説得する場面には指導者としての苦渋があります。長岡藩の心得とでもいうべき「常在戦場」の掛け軸を前に、次のように述べます。

 「これを知らぬ者は、ここには一人もおらぬはずだ。『常に戦場に在り。』このもじ、このことばは、当藩の者である限り、もの心づくと同時に、必ず目にし、耳にし、口にしているところのものだ。(中略)常に戦場にありとは、いくさのないおりにも、常に戦場にある心で、いかなる困苦欠乏にも耐えよという、おことばではないか。戦場にあったら、つらいの、ひもじいのなどと言っておられるか、何がないの、何がたりないのなどと、不平を言っておられるか。しかるに、武士たるものが、食えないとはなんだ」

 内情は承知の上ですから、そこで未来を述べるリーダーの切なさを感じます。同時に、いきりたっていた藩士も自らの非を素直に受け入れ、涙を流しながら理解して、ビジョンである「国漢学校」ができます。漢学を教えるだけでなく、洋学局と医学局も設置され、学力を認められた者は庶民でも学ぶことができる学校です。まさに〝藩に依存し責任放棄で酒を飲む藩士〟も、リーダーによって目覚めたのです。



本記事は、月刊『理念と経営』2024年2月号「企業の成功法則 社長力・管理力・現場力 三位一体論」から抜粋したものです。

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