企業の成功法則 社長力・管理力・現場力 三位一体論

途中であきらめたら 「気づきの束」が増えてこない

第五回WBCは、それぞれの個性的な「スキル・能力・ノウハウ・実力・知識」がワンチームになって、初めて勝利できたものです。社長・幹部・現場の三位一体の相互認識と、一人ひとりの必死の努力がつくり出したのです。

逆境を学びの機会と捉えた栗山監督

 プロ野球選手としての栗山英樹監督の活躍は「七年間」と意外に短いものです。しかもメニエール病による立ちくらみと闘う状態に絶えず悩まされ続けました。「打率三割を超えたことがない」と謙虚に表現しておられます。守備力は優れており、ゴールデングローブ賞を一度受賞しています。
 
 栗山監督はドラフトで指名された選手ではなく、一テスト生としてヤクルトスワローズに入団しています。「私の人生は逆境ばかりでした。テスト生でプロ野球選手になれたものの、周りの選手とのレベルの違いに愕然とさせられました」と、述べています。
 
 ではなぜ、四年に一度の世界一を決める侍ジャパンの監督になれたのか。

 一つは「逆境をどう解釈したか」です。野球だけが特殊ではなく、「人生という大枠」「世間・社会という大枠」で捉えてみます。どんな状況にあっても、絶えず可能性を失わない思考が、栗山監督の一言一言、一文一文に感じられます。

 「逆境は学びの機会として最高です。苦しみから抜け出すためにアイディアを絞り、トライする。それがダメなら違う方法を考える。それでもなおダメなら、また違うアプローチをする。うまくいかなかったことを教訓として解決方法へ辿り着くプロセスでは、柔軟な発想が身に付いていきます。次にまた逆境が訪れても、前回よりは早く解決方法を導き出せるようになるかもしれない」「グループで解決したら、同僚や友人同士の絆が深まるでしょう。逆境は歓迎すべき状況ではないけれど、悪いことばかりではないのです。問題を先送りせずに、できるだけ敏速に対処すればなおいい」

 ここに「問題発見力」「問題解決能力」「未来予測能力」を身につけるポイントがあります。栗山監督は、生き方の本質や、人間としてどうあるべきかの基礎・基本を身につけています。

 私は「可能思考」という人生最大のキーワードの研究と、それを身につけるにはどうすべきかをテーマにしたワークショップを三六年間行っています。栗山監督の言葉は、その三六年間の明確な定義です。途中で、投げ出し、逃げ出し、あきらめていては「気づきの束」は増えてきません。

栗山監督のリマインド学習

 現場力とは気づきの高さです。気づきの小さな束が蓄積されて、実践で試すことで徐々に「確信」として昇華されます。孔子も、ソクラテスも、仏陀も、実践を通しているから真理に近くなるのです。

 リマインド学習とは、山のような知識や体験を誰もが持っていることを前提条件にしています。理由は、その自分の記憶の奥の奥に眠る知識や体験を「思い出させる学習手法」だからです。さらに言えば、「記憶の中に小さく小さく残っているあなたの真理に近い答え」を引き出す学習だからです。

 栗山監督は「うまくいかなかったことを教訓として解決方法へ辿り着くプロセスでは、柔軟な発想が身に付いていきます。次にまた逆境が訪れても、前回よりは早く解決方法を導き出せるようになる」と述べています。

 つまり、逆境に挫折してもいいのです。①問題は、自らに問い正しているか?②乗り越えるために考え尽くしたのか?③具体的に実行したのか?④日頃から自己成長のための努力をしているのか?―この四つの質問にイエスと答えられるかどうかです。

 佐々木朗希選手は二一歳の若さでも①から④をやっています。大谷翔平選手も村上宗隆選手も同じです。年齢ではなく日々の生活の中で「挫折・成功」を振り返り「確実に貯蔵しているか」だけの差です。貯蔵するための手段にメモをとったり明日の準備をしたり、「13の德目」に記入しているかどうかです。

 単に記入しているだけではありません。一〇年後、二〇年後に迎えるかもしれない困難や逆境、成功の機会に活用する「リマインド学習」の準備です。栗山監督の「前回よりは早く解決方法を導き出せる」効果をリマインド学習といいます。

本記事は、月刊『理念と経営』2023年6月号「企業の成功法則 社長力・管理力・現場力 三位一体論」から抜粋したものです。

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