企業の成功法則 社長力・管理力・現場力 三位一体論

生産性を高める戦略は 現場にあるのです

コロナ禍で、容赦なくリストラに踏み込む企業もあります。ゴールドマン・サックスの金融調査室長だったデービッド・アトキンソン氏は、日本の生産性が低いのは中小企業に原因があると述べています。「甘えの上に成り立っている」という評価をどう思いますか?

中小企業の生産性低下の要因は何か?

  GDP(国内総生産)に占める能力開発費の日米比較を調べてみると、米国は二・〇八%、日本は〇・一%という状態です(厚生労働省調査)。
 つまり、日本は働く人の能力開発が疎かになっているのです。私は事実、スタンフォード大学の客員研究員時代にいろいろな企業にインタビューしましたが、HPウェイという企業理念で有名なヒューレット・パッカード社の教育システムには驚きました。二二年前ですが、自由に学べるようにホームページに数多くの選択肢があり、OFF-JT(職場外訓練)や〇JT(職場内訓練)を分野ごとに分けてありました。例えば、成果さえつくれば本社のあるパロアルトからニューヨークなど遠くに行って、自由に一週間でも二週間でも学ぶ機会をつくっています。大学の博士課程で学び、PhD(博士号)を手にすることもできるのです。
 それに比較し、日本では自由に自分のキャリアを高めるために学んで、能力開発に貪欲にチャレンジする人はあまり見当たりません。その点で、中小企業の現場力の衰えや生産性の低下は、自らが主体的に学ぼうとしない体質に起因していると言えるのです。
 もちろん、働く人の能力開発に力を入れようとする中小企業は多くあります。生産性の高い企業の特徴は、社長力・管理力・現場力の三位一体で、与えられた任務を全うすべく学ぶ努力をしています。
 ベトナム人を雇用する企業の方が、日本人とベトナム人の違いは仕事に対する熱意だとおっしゃっていました。現場力とは熱意や創造性、向上心、勤勉さです。それらが日本企業の強みの一つでしたが、今や、仕事の習熟度はベトナム人のほうが高く、生産性も高いようです。
 ベトナム人は日本人が一年近くかかる技術を二カ月で覚えてしまうそうです。その要因は家庭、学校など、日本の教育政策の誤りが、依存体質をつくっているからです。自分の目標を立案できない人がいたとしたら、それは会社が入社当時から能力開発に力点を置いてこなかった結果です。
 「戦略は現場にあり」と言われるように、情報は顧客接点の多い現場にあります。社長や経営幹部の、現場情報をヒアリングする力が鈍っている点も否めません。現場情報を大切にしない分、いろいろな情報が遮断されていることも大きな課題です。

所得倍増政策と中小企業基本法

  「所得倍増計画」は一九六〇(昭和35)年一二月二七日に池田勇人総理の池田内閣で閣議決定されたものです。アトキンソン氏は六三(同38年に制定された中小企業基本法の弊害を訴えています。補助金依存になり、企業経営を甘くさせている部分は否めません。しかし、その効果で実質国民総生産(GNP)を約六年、国民一人当り実質国民所得を約七年で倍増したのです。
 A社は、五〇〇〇万円の技術開発のための補助金を効果的に活用して、年間一億円近い利益を上げるようになりました。つまり、当時考えていた中小企業基本法は、将来の日本の在り方やビジョンを掲げて、産業育成と所得倍増政策の一環で法制化されたものです。その点を考えると、依存体質を生む政府のバラマキ政策も要注意です。
 ただ、真に日本の国の未来を描くという観点でいえば、池田内閣のような明確な政策が打ち出されていません。問題意識もなく、明確な政策が出てこないのです。政治だけではなくわれわれ中小企業も襟を正すべ
きです。アトキンソン氏は①企業の規模が小さくなればなるほど、そこに働く人の賃金は低くなる傾向がある、②中小企業は、大企業のように人材開発や、研究開発への投資も行ないづらい、③そのため生み出す付
加価値は小さく、生産性は上がらない、と述べています。"成に甘んじる中小企業"への警告です。
 アトキンソン氏の主張は、賃金に関しても正しい部分はあります。ただ、上場企業でも年収二六二万円という企業もあるのです。単純に「小企業を統合して規模を大きくすればいい」という考え方には疑問が残ります。小企業にしかできない、労働集約型のボトムの業種を担っているのです。生産性のコンセンサスがないのは事実です。大手は利ざやだけ稼いで、生産性の低い仕事は  小企業に回しているのが実態です。
 中小企業にも一人当たりの経常利益が一〇〇〇万〜一二〇〇万円という会社もあります。こうした企業に共通することは、ビジネスのイノベーションであり、現場力とは生産性を革新する力のことです。

本記事は、月刊『理念と経営』2021年4月号「企業の成功法則 社長力・管理力・現場力 三位一体論」から抜粋したものです。

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